アバターロボットを分身として、瞬時に意識や技能、存在感を移動。リソースの最適配置で人類の可能性を広げる ~avatarin株式会社~

ANAホールディングス発のスタートアップとして、2020年4月に設立したavatarin(アバターイン)株式会社。「アバターを、すべての人の、新しい能力にすることで、人類のあらゆる可能性を広げていく。」をミッションとして、アバターロボット「newme(ニューミー)」を展開しています。連携研究部/ソーシャルソリューション部部長の筒 雅博さんに、製品/サービスの特徴や強み、5Gを活用することで実現できること、目指す世界観などについて聞きました。

旅客輸送の課題解決から始まった、遠隔操作ロボット事業

―まず、御社の事業について教えてください。

筒:日常的に飛行機に乗っていらっしゃる方には当たり前の移動かもしれませんが、そもそも世界中の94%の方々が、生まれた場所や身体的制約などさまざまな理由で飛行機での移動が当たり前ではありません。当社では、通信やロボティクスの技術を用いて、瞬間移動のサービスを実現しようとしています。

具体的には、自分の分身のように動かすことができるロボットを「アバターロボット」というのですが、弊社では新しい私の意味で「newme(ニューミー)」と名づけたロボットを自社開発して、製造を行っています。ユーザーはこのロボットを遠隔操作することで、その場にいる人に自分の存在感を感じてもらいながらコミュニケーションができるのです。

―その人がその場にいるような感覚で活動できるから、瞬間移動なのですね。

筒:そのとおりです。これまでの移動の概念を変え、人の肉体を移動させるのではなく、人の意識や技能、存在感のみを移動させるということです。

たとえばメタバース空間でも自分の分身を電気信号で動かしていますが、それをリアルな空間で、ロボットを通して実際にコミュニケーションを行う。ロボットが将来さらに高度化して、手が付くなどすれば、よりできることが拡がっていくでしょう。

―近年普及しているオンライン会議ツールとの違いは何でしょうか?

筒:オンライン会議ツールでできるのは言葉によるコミュニケーションだけで、カメラオフされれば誰が聞いているかも分かりません。一方、avatarinでは車輪がついていて移動でき、ロボットを分身のように動かせるので、周辺を案内したり、相手のほうを向いて話したりするなど、自分のやりたいことをロボット越しに実現できます。同時に、ロボットが人間らしくいて顔が映っていることで、周りの人からも話しかけたり手を振ったりしてもらえる。リアルに相互作用させられるのです。

―そうしたインタラクティブなコミュニケーションを支える工夫は何かありますか?

筒:newmeは軸が可変式で、見たい場所やものによって高さを変えられます。人間は自然と姿勢を上げ下げして調整しているので、それに近づける工夫ですね。また、クッションのカバーの色もオリジナルで作れ、利用する企業のコーポレートカラーにしたり、使う場所のトーンに合わせたりできます。

そもそも形状(ロボットデザイン)も、人にもロボットにも寄せすぎないよう、空間に自然と存在できるように作っています。顔で互いを認識し合うので、人型の形に寄せていくと違和感が増してくるので、そのバランスはかなり考えて開発しました。

5Gの「大容量・低遅延・多接続」がロボットの精度や活動環境に直結

―具体的にはどのように活用されていくのでしょうか?

筒:オフィス、店舗での接客や案内、受付など、さまざまな利用事例があります。また、遠隔操作での実証実験を地方自治体と行っていて、医療・介護や観光・ショッピング、見学授業、展示会などでの活用を試みています。
基本的に、日本ではどの業界においてもリソース不足ですので、貴重な労働力を余らせずに必要なところに行き渡らせたいと考えています。たとえば英語の通訳者が、地方の一つの場所では、仕事の需要が1日1~2時間しかなかったとしても、1日8時間働きたければ、全国各地のアバターロボットが置かれているところに随時入り、働くことができればよいのです。

―「アバターインする」ことで、いろいろな場所にスイッチして働きたいだけ働くことができるのですね。

筒:そのとおりです。専門スキルや特定業務に精通した人材が、場所を選ばず、必要とされる場所で働けるようになれば東京でも離島でも同じように働け、住む場所の選択肢も広がり、人口偏在の解消につながります。さらに自動翻訳・通訳を介在させれば海外にもフィールドが広がり、世界中で人材の最適配置が進められるのです。
もちろん、病気や育児中など、行動の制約を受ける人の自由度を高めることで当社のミッション「アバターをすべての人の新しい能力にすることで、あらゆる可能性を広げていく」を実現できます。

―このサービスに5Gを活用することで実現することを教えてください。

筒:5Gの通信には「大容量」「低遅延」「多接続」と大きく3つの特徴がありますが、その全てに関係があります。
まず、大容量は画質の良さをもたらし、動画が鮮明で細かいものが見られるようになります。互いの表情が細やかに見られるのも重要で、たとえば遠隔医療で顔色やむくみの状態がきちんと伝われば、診療の精度がより向上します。
低遅延に関しては、タイムラグが少なく、よりスムーズな操作性を実現できます。遠隔操作において、遅延は操作性に直結する重要なポイントです。
そして、多接続が可能になれば、ロボットが同じスペースに100台集まってもスムーズに稼動できます。多くのnewmeが行き交うことができ、将来さまざまなタイプのアバターロボットが普及しても問題ないでしょう。遠隔操作の可能性も、オフィスや商業施設だけでなく、工事現場や漁場、山間部など多岐にわたり、いろいろな業界で発展することを考えれば、5Gの多接続性は非常に重要です。

GAFAとは発想を異にする、日本人らしい配慮を体現するロボット

―将来的に目指す世界観はどのようなものですか?

筒:遠隔診療の例を挙げましたが、医療のデジタル化というと手術ロボットのような専門性もありますが、当社が目指すのはもっと一般的な課題の解決です。たとえば街の診療所でアバターロボットを使ってもらい、遠隔地から医師が問診を行い、気づきがあればそれを受けて地域の中核病院に送る。そうすれば早期発見・早期治療につながり、医療リソースを社会全体で有効活用できます。そんな風に、社会全体のリソース最適化を目指したいのです。

過疎地域であれば、高齢者の独居世帯などに1台置いておき、医師や薬剤師、介護士など、いろいろな目的の人がどこでもドアのように使えるでしょう。遠くに住む家族や友人が気軽に会いに来てもいい。人生終盤になると、次この人に会えるのはいつになるかと思うもので、その回数を増やせれば時間を豊かに使えますよね。

―最終的な目標は?

筒:いま世界の人口が約70億人なので、1人1台で70億台は普及させたいですね。遠隔操作したい領域は爆発的に増えていくと思うので、遠隔で仕事を行える人も増えるでしょう。そのときに、ならばロボットで旅行体験をしようと考えがちですが、そうではなく旅行するのはぜひ本人にしたいもの。酪農が遠隔でできれば酪農家は週2日休めますし、1週間休暇を取って海外旅行にも行けます。仕事を遠隔で行って、できた時間はリアルな体験をしてほしいですね。

―この技術に興味をお持ちの人へアドバイスをお願いします。

筒:newmeで接客や案内を行うと、プロアクティブなおもてなしができます。チャットボットのようなシステムでは、困っているお客さんがシステムを使わなければ問題解決ができませんでしたが、newmeでは、newmeを操作している人が、困っている人の様子を見極め、静かに近づいてアイコンタクトし、圧迫感を与えずに声をかけて、問題解決を行います。それができるのがnewmeなのです。単なる人手不足解消でなく、日本らしいおもてなしの香りがするロボットやサービスができるということです。それをたとえば空港で見た人が帰国して伝えていくと、評判になり輸出が増えるかもしれません。GAFAとは異なる、日本らしいアプローチのきめ細やかなロボットやサービス開発を進めていきたいと思いますので、興味をもたれたらぜひお問合せください。

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