互いの気配が伝わる「窓」による等身大のコミュニケーションで、世界の80億人が自然体でつながる ~MUSVI株式会社~

前職のソニーでコンセプト創出および研究開発を行ってきた、テレプレゼンスシステム「窓」の事業化を目指して2022年1月に設立されたMUSVI(ムスビ)株式会社。距離の制約を超えて人と人・空間をつなぎ、「あたかも同じ空間にいるような自然なコミュニケーション」を実現しています。代表取締役CEOの阪井 祐介さんに、製品/サービスの特徴や強み、5Gを活用することで実現できること、目指す世界観などについて聞きました。

空間を一目で捉える縦型画面と広範囲の音の気配で、心の窓が開く

―まず、御社の事業について教えてください。

阪井:「窓」というデジタルデバイスを創っています。アニメの世界の「どこでもドア」と違って行き来するのではなく、向こう側の人とつながって響き合うもの。普通に、目の前の人とお会いする感覚であり、ここではないどこかとつながる感覚が持てるものです。また、画面をぼかすカーテン機能もあって、つながっているけれど心地よい距離感でいることもできます。

もともと私は旅が好きで、単身現地に飛び込んで地元の人とすぐに友達になったりしてきました。そんな旅で感じる、日常生活とは異なる壁のなさというのを、距離を超えて人々に届けたかったのです。「窓」があれば、移動しなくても心がそうしたオープンな状態になるんです。

―先ほど執務室で「窓」を体験しました。大き目の姿見くらいのサイズですが、向こう側の方と目が合って思わず会釈してしまいました。オンライン会議ツールとの違いは何でしょうか?

阪井:「窓」は臨場感と気配によって、そのような自然なコミュニケーションを起こさせるのです。その映像は視覚的にはディスプレイのサイズに限られますが、賑やかな場所でなければ音声は20~30メートルくらいの範囲を双方向につなぐことができるので、たとえば向こう側のオフィスの冷蔵庫を開け閉めしている様子も分かります。音の気配を感じられることで、相手と心が通い合うラポールの状態が生まれやすいのです。

一方、一般的なオンライン会議ツールは、強力なノイズキャンセリングで人間の声を中心に届ける仕様になっています。ですからアジェンダに沿って話者が順番に話したり、あるいは多数に向けて一人が話していくことには向いていますが、その分背景や周りの音を伝えることが難しいと思います。

―デジタルデバイスのディスプレイは多くが横型ですが、「窓」は縦型です。これはなぜですか?

阪井:認知心理学的に、縦に1.2メートルの表示領域があると、部屋の奥行きやサイズ感を視覚的に一瞬で捉えることができます。また、相手の体のおへそ辺りまでが見えると、立体感や雰囲気がつかめ、相手への理解度やシンクロ度が飛躍的に増すので、縦型にしました。

そもそも横型の画面はテレビや映画など、パッシブに鑑賞しやすく、縦型になるとドアのように向こう側に行ける、インタラクティブな感覚に変わるという知覚の特徴があるのです。

そうして等身大の相手と出会い、床や天井も見えることでつながりを感じやすくなります。さらに先ほどの音の気配も相まって、同じ空間にいるようなコミュニケーションが生まれるのです。

空間を飛び越えリアルにつながる体験が、ポジティブな意識の変容をもたらす

―具体的にはどのように活用されていますか?

阪井:現在、国内外で約350台の「窓」が設置されており、さらに導入が進んでいます。いろいろ使っていただく中で新たな使い方や可能性が見えてくることもあり、さらなる改良の余地が大いにあります。

導入事例には主に「オフィス・現場」「医療・介護」「地域創生・教育」など、3つの軸があります。建設現場と本社をつないでいる例では、「窓」を通じて現場の様子や空気感が伝わり、チームに一体感が生まれ、コミュニケーションが活性化した例もあります。

また、「窓」の可能性を広げてくれるような、本当に奇跡と感じるような事例が「医療・介護」「地域創生・教育」でもたくさん起きています。

―まず、「医療・介護」における事例を教えてください。

阪井:コロナ禍の小児病棟での「窓」を通じた家族面会の事例では、重い心臓病の妹さんに面会することができなくなっていたお兄ちゃんが、「窓」越しに誕生日会をおこなうことができました。お兄ちゃんは「どこでも窓だ!」といって本当に喜んでくれて、そのことがきっかけで絶対に妹を助けたい!と決心し、家族と一緒に心臓移植手術のための募金活動が始めたのです。そうして2-3ヵ月の間に、目標の数億円が集まり、すぐに渡米して手術を受け、誕生日から1年足らずでまた一緒に遊べるようになったのです。

このように「窓」を通したコミュニケーションはリアルに近く、たとえバーチャルでも「会った」という体験や実感を通じて今まで無理だと思っていたこともがんばれるような、前向きさをもたらします。まさに心の「窓」を開くというか、意識がポジティブに変化するのですね。

―入院患者もポジティブになれれば、辛い闘病生活を乗り切る助けになりますね。介護施設でも同様の効果が期待できそうです。「地域創生・教育」ではどのような事例がありますか?

阪井:島根半島の北方約60キロにある隠岐では、島前と島後という二つのエリアにある県立高校の図書館同士を「窓」でつないでいます。ユネスコの世界ジオパークに認定されていて、独特の自然環境や伝統文化が魅力的な島々なのですが、エリア間の10kmの海峡によって島同士の交流が難しいという課題がありました。そこで、隠岐の将来を担う高校生たちが日常的につながり、学び合い、日本や世界に向けて一緒に隠岐の魅力を発信していけるようにという想いで、「窓」が開きました。これによって、島の子同士はもちろん、島外の学校や企業との交流が拡がり、新しい視点から自分たちが生まれた土地の価値や面白さに気づくことで、自分たちの地域に誇りを持つきっかけをなっています。

5Gで同時に複数台がつながれば、人類が未体験の何かが起こせる

―このサービスに5Gを活用することで実現することを教えてください。

阪井:「窓」は、映像音声技術や、認知心理学的なノウハウを用いて、相手が目の前にいるかのようなリアリティを実現しながら、数Mbpsの伝送レートに抑えていますが、同時に複数台でつながり、組み合わせて何かを行うには5Gの大容量・低遅延性が有効です。今回のプロジェクトでも、オフィスや行政はもちろん、離島や中山間地域での地域活性化や教育、医療などを幅広い分野での複数台の「窓」の活用を検討しており、5Gの効果に期待しています。

―1対1でつながるだけでも双方向のコミュニケーションが活性化しますが、複数でつながるとさらに面白いことが起きそうですね。

阪井:そうなんです。実は一昨年横浜にオフィスを作ったときに何となく、「窓」を8台並べてみようと思い立ち、魔方陣のように並べてみました。すると、朝、出社して「おはよう!」と声をかけると、「窓」の向こうの品川や葉山、CFOの自宅といった様々な場所から「おはよう」という声がかえってくる。「窓」の向こうにいろいろな場所がつながり、「窓」に映っている「窓」の向こうともつながって、想像していなかったような広がりができたのです。

さらに、「窓」の次のアップデートでは、ゴーグルなども不要で仮想空間とつながるようにする予定です。空間の中に自然と配置された「窓」を通じて、現実空間と仮想空間の境界がまどろんで、不思議な感覚を味わえます。

―この技術に興味をお持ちの人へメッセージをお願いします。

阪井:「窓」で何ができるか、いろいろなパートナー企業やユーザーと面白く考えていきたいですね。MUSVIの「いのちをちかくする」というフィロソフィーは、命を「知覚」することで互いの存在を「近く」感じるという掛け言葉になっています。離れていても、誰かと共に在ることを感じられる「窓」があれば、「どこにいても、いい気がする。」。人と人が心地よくつながった先に、何が起きていくのかを楽しみにしています。

そもそも「窓」は製品として離れた場所をつなぐ空間接続ソリューションであり、社名の「MUSVI」では、そうした技術を使って世界の80億人をリアルに出会わせる、いつでも会えるという意識の状態にもっていくことを目指しています。そんな試みを、ぜひ一緒に行ってくれる方々をお待ちしています。

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