2016年より狭小空間に広大な仮想空間を構築する技術にフォーカスしてきた株式会社ABAL(アバル)。ネットワークを介して、離れた現実空間をVR空間内で連結し、1つにすることで、ユーザー同士がコミュニケーションできます。
代表取締役の尾小山 良哉さんに、製品/サービスの特徴や強み、5Gを活用することで実現できること、目指す世界観などについて聞きました。
広大なVR空間で、自由移動・体験共有が可能に
―まず、御社の事業について教えてください。
尾小山:XR技術を用いてバーチャル体験空間を提供しています。バーチャル空間には、クラウド上にあるメタバースと呼ばれるものと、リアルメタバースと呼ばれる、現実の空間にバーチャル空間を構築する技術があります。当社は両方とも提供していますが、特に後者の技術に長けています。
中でも狭小空間をバーチャル空間で拡大することが得意で、たとえば3メートル四方の現実空間に東京ドームサイズのVR空間を展開したりできます。さらに、エレベーターで移動するように仮想空間を連結もできますし、そうして拡大した部屋でバーチャル空間を、100人規模の複数人数で共有できるのも特徴です。そして、ソリューションを提供するだけでなく、クリエイティブも自社で手がけています。
―これまでにどのような実績がありますか?
尾小山:リアルメタバース空間は、累計10万人以上に体験いただいています。イベント場所を提供するB2B2Cの形が多いですね。ショールームや物産展、アトラクションなど、多様な実績があります。
ショールームではたとえば、外資系自動車メーカーで、日本に入荷前の車両をデータで展示しました。実寸で見られるのはもちろん、現実のショールームと違って、遠距離や上方からも眺めることができ、置かれるロケーションも海辺など、ブランドや商品イメージに合わせることが可能です。
また物産展ではリアルメタバース空間に構築した和歌山の物産展を銀座の商業ビルに設置。銀座と和歌山県の商工会ホールを5Gで繋ぎ、19の事業者が和歌山県から直接バーチャル空間で接客を行うといったイベントを行いました。こちらのイベントではECと連動することでVR内から購入が可能になっています。
アトラクションでは、東京都・東京都歴史文化財団と共同で、落語の「死神」を題材にした「XRアートシアター」を開催しました。観客は演目の空間に入り込み、歩き回ることができます。自分のアバターをスマホで設定し、演目の中でそのアバターになることや、中で撮影した写真をスマホにダウンロードすることもできます。
―ビジネスへの活用は、物産展以外にも考えられるでしょうか?
尾山田:やはりリテールでしょう。店舗においては近年、「コトを売る」ことが重視されていますが、当社の技術であれば店舗に体験をパッケージ化して持ってくることができます。店舗ディスプレイの発展型として有望でしょう。
商材としては、制作・製造のバックボーンが付加価値となるようなものが向いていると思います。たとえば日本酒を、酒蔵の様子を見た後に試飲すれば愛着が持て、ファンになってもらえるなどです。フェアトレードのコーヒー豆も、アフリカのコーヒー農園での栽培の様子が見られれば説得力が増しますし、収穫や焙煎のプロセスをストーリーとして、そのシチュエーションで体験することで、購買につながります。
5Gの「大容量」「低遅延」「多接続」で、体験コミュニケーションが加速
―このサービスは、5Gと相性が良いのでしょうか?
尾山田:もともと5Gの通信環境を想定したものといえます。当社のプラットフォームではシステムとハードを組み合わせ、VR空間内での自由移動や体験共有が可能になるわけですが、さらにクリエイティブも当社で担うため、VR空間構築におけるノウハウを蓄積した上で、従来のXRコンテンツよりリーズナブルで効率的なコンテンツ制作が可能です。その際に、もともと5G対応を前提として設計しているので、大幅なシステムの入れ替えを行わなくても5Gの広がりに則して、新たな体験価値を提供することができます。
―このサービスに5Gを活用することで実現することを教えてください。
いろいろなことがあります。5Gの「大容量」「低遅延」「多接続」によって、VR空間を同時に体験できる人数も増やせ、1000人規模になるでしょう。ライブやイベントであれば、より大人数で同時に楽しむことができ、建物一棟をイベント会場にすることも可能です。店頭ディスプレイや展示会、ショールームなどにおける利用についても、より高精細でリアリティのある3DCGデータで展開ができ、同時に展示できる商品数も増やせるので、商業・展示施設を全てバーチャル化することも可能になります。リアル店舗と組み合わせたVR店舗展開も、より大規模に商業施設全体に導入するようなこともできるようになります。
また、VR空間内ではハンドトラッキング機能によって手を使うことが可能なので、手を使ったボタン操作など、さまざまなインタラクションや操作を組み込むことができます。これも5Gの「大容量」「低遅延」によって、多人数かつ同時性が求められるコンテンツが利用できますので、遠隔地のコーチによる指導や評価、拠点間をつないで行う合同トレーニングといったものも行えるようになります。
一番のメリットは、リアルタイムにストリーミングするパフォーマンスに適しているということです。当社でコンテンツ制作を行っていくときに、バーチャルのキャストが出現してリアルタイムにそこでパフォーマンスするものが作れる。それは5Gでなければできないことです。動きももっと滑らかになり、パフォーマンスの品質が格段に向上するでしょう。
既存の場所をバーチャルデータで改装し、付加価値を与える
―将来的に目指す世界観はどのようなものですか?
尾山田:リアルメタバースの施設自体を構築して、日本全国や世界各地に展開していくことをやりたいと考えています。そして、施設へのコンテンツ提供も同時に行っていきます。最終的には、当社自身のIPが世界に通用するようなコンテンツを生み出し、全世界の施設で上映できるようなイベントを作りたいです。
施設は、会議室をコンサートホールに変えるなど、何でもできます。その場所をバーチャルデータで改装し、価値を変えるということ。これを世界中で行いたいのです。
また、副次的ですが、メタバース空間内でのトラフィックデータをマーケティングに活用することも視野に入れたいですね。
―この技術に興味をお持ちの人へアドバイスをお願いします。
尾山田:5Gで、より豊かな表現ができ、距離を感じずにリアルな体験コミュニケーションが可能になりますので、いろいろな活用が考えられると期待しています。そうした中で、キャラクターなど、IP(知的財産)ビジネスに携われている方々とぜひ一緒に、リアルメタバース空間で新しいビジネスを作っていきたいです。この場所でIPの新しい表現を生み出したいですね。また、場所をお持ちの方々には、その場所の価値をデータで改装していくことに、一緒に取り組みましょうとお伝えしたいです。