電気通信大学 大学院情報理工学研究科 機械知能システム学専攻 准教授

菅 哲朗

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MEMSによる新しい光センサ

本研究室では、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術を利用した、新しいセンサやデバイスの研究を進めています。特に、MEMSと光の相互作用を活用した、光センサの研究開発に注力しています。

MEMSは日本語では微小電気機械システムと翻訳されます。主に、半導体微細加工技術を応用して、微小なエレクトロニクス要素と機械要素を統合したセンサ・デバイスの技術体系を意味します。

通常のLSIなどではMOSトランジスタや配線などの電気的要素を製造しますが、MEMSではこれらに加えて半導体技術による機械構造形成を行うという特徴がある。機械構造としては、例えば、シリコンなどの半導体基板材料に、異方性エッチングを用いて縦方向の深掘り穴を掘ったり、犠牲層エッチングという方法を用いてヒンジなどの可動機械構造を作製したり、SOI(Silicon-on-insulator)と呼ばれるシリコン・ガラス・シリコンのサンドイッチ基板を用いて加工を行うことで、マイクロ片持ち梁構造を作製することなどができます。MEMSで構成可能な構造寸法は、サブµm~数mm程度の範囲にわたるので、小型なセンサシステムを実現可能な技術として、近年広く使われています。さらに、微細3次元構造を比較的自由度高く作ることができる上に、アクチュエータ機構を統合することで、微細構造の動的変形も実現できるなど、柔軟性も兼ね備えています。

MEMSセンサ・デバイスは、市場では加速度センサやジャイロ、マイクロフォンなどですでに大きな市場を形成していますが、私の研究室では、MEMS技術のポテンシャルをさらに伸ばすべく研究を進めています。特に注目しているのが、光の波長と同程度の構造を作ることで、新しい光センサ・デバイスを作ることです。近年、電磁波の波長よりも微細な金属マイクロ・ナノ構造を構成することで、自然界の物質単体では実現できない光学特性を実現する表面プラズモン共鳴構造やメタマテリアルが盛んに研究されています。表面プラズモンとは、金属の表面で自由電子が光と共鳴して、強い電子振動を生じる現象です。特定の波長の光を検出するなど、センサへの応用が可能です。メタマテリアルは、光より小さな光共鳴構造をアレイにして、任意の光物性(屈折率、透磁率など)を、材料に与える技術です。これらの技術発展により,波長選択的な光のセンシング,フィルタリングなど,自然界の材料のみでは実現できない機能が次々と提案されています。

こうした技術を、私の研究グループではMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)上で活用しています。これにより、赤外線に対して機能する新たなセンサやフィルタを実現する取り組みを進めています。特に、キー技術として、表面プラズモン共鳴の状態を、MEMS構造上でダイレクトに電流検出する独自の方法を用いています。これにより、上述したような新規な光学特性をMEMSのエレクトロニクスと融合可能としている点が、本研究室の持つシーズ技術の強みだと考えています。今回の展示では、このシーズを展開した研究例として、シリコンを利用した赤外線検出器、超小型な分光素子、ウイルス検出を目標とした化学量センサ素子などについて紹介を行います。