東洋大学 生命科学部 生命科学科 教授

竹井 弘之

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迅速簡便SERS測定用デバイスファミリー

振動分光法の一つであるラマン分光は化学物質の同定に適した分析方法ですが、低感度が弱点として挙げられます。但し、測定対象物を貴金属ナノ構造体と接触させることにより、ラマン散乱光が数桁以上増強されることが70年代から知られています。「表面増強ラマン分光法: SERS法」として知られるこの手法を活かすため、多岐に渡るナノ構造体がここ十年ほどの間に市販化されています。

我々の研究の目的は三つあり、一つは製造プロセスの簡略化による製造コストの低減であり、10分の1以下の低減が市場の拡大につながると思われます。二つ目は作製された基板の保存時間の延長であり、作製後、一年程度保存できることを目指しています。また三つ目の目的は、使い勝手の向上です。市販化されているSERS基板の形状は基本的に平板状あり、液体の滴下による使用が想定されています。しかし、滴下された液体を基板上に維持するのは困難であり、均一に乾燥することは容易ではありません。それに対して、我々は目的に応じて次の様な形態のデバイスを用意しています。

 

(1)標準基板
スライドガラス上に、SERS活性部位(直径 3 mm)が最大50スポット形成されています。各スポットは撥水領域により囲まれていることから、滴下されたサンプル水溶液はスポット領域に留まります。表面のナノ構造はAgFON(silver film on nanosphere)法により形成されており、銀薄膜で被覆された直径100 nmのシリカ粒子です。

 

(2)濃縮型基板
低濃度・微量のサンプルを測定する際、濃縮による前処理が有効です。直径1 mmのSERSスポットは超撥水領域により囲まれています。SERS部位の表面は親水性であるため、微量の水溶液を捕捉するのに有利です。サンプルの乾燥により、容易に濃縮が実行でき、SERS信号の更なる増強が可能となります。神経伝達に重要な役割を果すアセチルコリンエステラーゼに対する阻害剤のスクリーニングに使えることを示す論文を発表しました。

 

(3)圧着型SERSデバイス:FlexiSERS
測定したい検体は液体とは限りません。固体表面に吸着した物質を同定するためには、従来法においては物質を表面から回収する必要がありますが、我々はin situで同定する方法を開発しています。右図にあるピンの先端には、柔軟性なパッドが固定されており、パッド表面にAgFON構造が形成されています。農作物表面の残留農薬等の検出を目的として開発を進めており、ピンを農作物表面に押し付け、AgFONに転写された農薬を直接同定することができます。柔軟なパッドを採用していることから、AgFON構造は凹凸表面に追従でき、検出対象物の効率的な転写に有効です。グレープフルーツ表面のTBZやフェルバムの検出を行なっています。

 

(4)フロー型デバイス
フロー系における検体の検出を目的としたデバイスも開発しています。汎用性を高めるため、チューブ中に直接挿入できるデバイスを開発しています。HPLC系への組み込み応用について、海外の研究グループとの共同研究を検討しています。

 

▼ 評価用基板の無償提供
標準基板と圧着型SERS基板は、一定量を定期的に作製していており、手元に余興分が常にあります。SERS研究の着手を検討している研究グループおよびに企業様には限定数の基板を無償で提供いたします。

測定例およびに市販SERS基板との比較評価に関するデータは、ご要望に応じて提供いたします。