物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 NIMS特別研究員

小林 尚俊

  • ライフサイエンス
  • 機能性材料

長期保存可能なヒト角膜代替脱細胞化豚角膜移植片

▼ 背景
・角膜移植を必要とする患者は、世界で約1300万人いるが、手術件数は約19万件/年であり、角膜不足が問題。
・日本では、ドナー角膜はほぼ100%米国からの輸入。移植待機患者の増加と高額な医療費が問題。
・移植患者の3割で免疫拒絶が起こり、5年成功率は5割程度。保存期間も2週間と短い。

▼ 狙い
・動物組織から細胞成分を除いて免疫原性を低下させた脱細胞化足場が注目されている。
・献眼システムに依存した既存角膜治療用ヒト角膜移植片に代替可能な、長期保存安定性を持つ動物由来の新規角膜再生足場材料・デバイスを超高静水圧処理法を用いた脱細胞化技術を用いて創出する。

▼ 概要
〇研究項目
・現行の不透明な脱細胞化角膜実質足場を透明化するための処理条件、処理液を開発

・製品の長期保存安定性を実現するための保存法を開発
・開発製品の生物学的安全性評価、特に兔を用いたIn vivo安全性評価

ヒト角膜移植片は供給数が足りず、その保存期間も2週間と短いため、移植待機患者が多数存在する。この問題を解決するため、異種動物から得られる角膜を超高静水圧処理法を用いて脱細胞化角膜としてヒト角膜移植片の代替品を開発中であるが、本技術は、その透明性と長期保存安定性を顕著に向上させる処理条件、保存方法に関する発明である。

添加剤の検討を進めた結果、最適濃度の処理液を用いて透明化処理と減圧乾燥を行い保存する条件で、脱細胞化角膜が透明な状態で復元できることが分かった(6か月の保存サンプルまで確認)。

6か月保存サンプルを日本白色家兔の角膜内にインプラントした結果術後数日内に透明となり、その後6か月間、血管侵入や角膜混濁等のイベントも観察されなかった。組織学的検討の結果、免疫反応はほとんど観察されず、生体適合性が確認された。

▼ 応用分野と今後の展開
・ 表層、深層部分角膜移植
・ 内皮細胞シート移植用キャリア
・ iPS細胞から調整される内皮シート、上皮シートとの組み合わせた全層角膜移植

▼ 実用化へ向けた課題
・臨床応用を進める眼科医と製造販売を担う企業とのパートナーシップの構築
・具体的なターゲット疾患の選定と許認可に向けたパッケージデータの収集
・大きな市場を持つ、インド、中国、東南アジアへの展開のためのビジネスモデルの構築