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大学債の概要、動向

大学債が注目されています。

 

日本では東京大学が初めて大学債を発行しました。10年で計1000億円超の調達を目指し、資金は先端的な研究施設やオンライン教育体制の整備に充てる方針。交付金や補助金が減る中、大学にとって自由度の高い資金の調達は共通の課題となっており、他の国立大学にも広がりそうと記載されています。

 

出典:日本経済新聞 東大、初の大学債発行 10年で1000億円超調達へ
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60556840Z10C20A6EA4000/

 

Yahoo!ニュースにも取り上げられています。

出典:Yahoo!ニュース 東京大学が資金調達のために初めて債券(大学債)を発行

https://news.yahoo.co.jp/byline/kubotahiroyuki/20200623-00184591/

 

下記の記事では、生活保障型寄附信託(仮称)制度を創設の提案も記載されています。

 

出典:科学新聞 「大学債の発行対象制限を撤廃」「生活保障型寄附信託制度創設」 国立大の機能強化へ 東大・五神総長が提案

「大学債の発行対象制限を撤廃」「生活保障型寄附信託制度創設」 国立大の機能強化へ 東大・五神総長が提案

 

経緯としては下記の記事に詳しく掲載されています。

出典:東大新聞オンライン 大学債発行要件緩和へ より戦略的な資金運用が可能に

大学債発行要件緩和へ より戦略的な資金運用が可能に

 

以下に抜粋します。発行体格付け「AAプラス」を取得すると記載されています。

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現在の国立大学法人法では、大学債の発行は付属病院や寄宿舎の整備など、直接的な収入が確実に見込める事業でしか認められていない。そのため、教育研究事業のための土地取得や建物の整備など、直接収益に結び付かないものの大学として重要な分野への投資が困難だった。

五神総長の要望が認められたことで文科省政令が改正され、大学全体の余裕資金を原資とした債券発行が可能となる見込み。東大の担当者は東京大学新聞社の取材に「日本は大学に投資できる財政状況にない。しかし、企業の内部留保や個人資産の投資先として大学を活用してもらえれば、大学が社会変革を起こすことができる。東大が先行して国立大学のモデルになる必要がある」とした。

東大は2019年に格付投資情報センターから、日本国債と並ぶ発行体格付け「AAプラス」を取得するなど、大学債発行要件緩和に向け、準備を進めていた。早ければ21年度にも大学全体の余裕資金を原資とした債権を発行する予定。政令改正だけでは対応できない人件費・研究費目的の債券発行に向け、今後は法令改正を要望するという。

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下記の記事では、坂田 一郎副学長のコメントも掲載されています。

国内初の「大学債」 東大が200億円調達目指す
https://news.yahoo.co.jp/articles/2396c32488360041aeda29df5d9f8029045760d8

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東京大学・坂田一郎副学長:「リモートで授業や研究活動できる環境、先端的な研究設備や施設、そういったものに大きな投資も必要」  東京大学の「大学債」は毎年、利息の支払いをしながら40年間で返済する条件で投資家から200億円を調達することを目指し、来月にも発行します。さらに今後10年で1000億円を調達したい考えです。国からの交付金が減るなか、自由な研究資金を確保します。国の規制緩和もあり、国立大学による債券の発行が今後、広がる可能性があります。

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2020年には東京大学のホームページにて大学債の投資家向け情報が公開されています。

https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/public-info/for_investors.html

 

また、久保田博幸より、「東京大学が発行する大学債の人気が高い理由」としてYahoo!ニュースにて、コラムが掲載されています。

https://news.yahoo.co.jp/byline/kubotahiroyuki/20201010-00202338/

 

東大新聞オンラインに掲載された記事では、「発行予定額の6倍を超す1260億円の注文が集まった」とされています。

【2020年の東大を振り返る】③日本初の大学債発行 償還の見通し不透明

なお、文部科学省のホームページでは平成19年に株式会社日本総合研究所が発行した報告書が公開されています。法改正前のものですが、国立大学の借入・債権発行に関する考え方がどうであったかはおよそ掴むことができます。

 

国立大学法人の借入・債券発行による資金調達制度の概要

https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/08063005/001.htm

 

大学における教育研究の環境整備のための新たな資金調達に関する研究

https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/08063005.htm

 

政策的な動きとして、2020年11月に「大学債の発行要件の緩和と今後への影響 」として参議院常任委員会調査室・特別調査室より、資料が公開されています。

https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2020pdf/20201102049.pdf

 

主には、なぜ大学債が必要かの説明がなされていますが、特筆すべき点として、56-58ページにわたって留意点が記載されています。以下、抜粋します。

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4.大学債に係る主な留意点
これまでの運営費交付金や寄附金等にとどまらず、新たな外部資金を確保でき、そうした資金で研究活動等を拡大させていけるようになったこと自体は国立大学法人にとって大きなメリットであるが、大学債の発行に当たっては、以下の留意点が考えられる。

 

(1)償還計画の策定と管理
大学債は、大学が市場から広く資金を集めるために発行する有価証券の一種であり、借金であることから、利払い日に一定額の利息を支払うとともに、返済期日(償還日)には元本を返済しなければならない。この点、法人法第 34 条に基づき、国立大学法人は、毎事業年度、償還計画を立てて文部科学大臣の認可を受けることが求められている。その際、収益の増減動向や見通し、償還期限に向けてのキャッシュフローの管理の方法が重要なポイントになるものと考えられる。今般の要件緩和を受け、償還財源として認められた寄附金や運用益など大学全体の収入を考慮して、キャッシュフローの管理を確実にするための償還計画の適正な審査が求められる。

 

(2)デフォルトリスクへの対応
この大学債の発行について議論された際、「国立大学が民間企業と異なる制約条件として、非営利部分を持つことによって破産することが出来ないという観点を踏まえると、デフォルトリスクを回避するための仕掛けは重要ではないか」との指摘もなされていた。万が一、大学債がデフォルトになった場合には、発行者である大学は破綻したとみなされ、発行者に何らかの債権を保有する全ての債権者が自らの債権への弁済を請求し、債権者は債権保全のために発行者が保有する資産の差押えなどを行うものと予想される。国立大学が策定する償還計画には文部科学大臣の認可を要するとの前提に立てば、デフォルトする可能性は低いとも考えられるが、万が一の場合の対応策は必要不可欠である。なお、最悪の場合には、国がその償還を国費で肩代わりする可能性も考えられる。

 

(3)財務内容等の情報開示
大学債の保有者である投資家への信頼を獲得しておく意味で、大学債の発行者である国立大学法人は、財務内容等を積極的に開示し、大学債の償還可能性に係る情報発信を償還期間中に定期的に行っておくことが重要である。特に償還計画や資金の運用状況、資金使途である収益対象事業の収支状況等を公表しておくべきである。また、投資家向けの専用窓口の設置や説明会などを通じて開かれた情報開示を行うことも必要である。

 

(4)運営費交付金への影響
今回の大学債の発行要件の緩和は、運営費交付金の交付総額に少なからず影響を与える可能性がある。大学債の発行対象の拡大は、国立大学法人の多様な財源調達の一手段となる。各国立大学法人は、大学債の発行により調達した資金を研究費などに充てて、独自に法人経営を進めていくこととなる。しかし、国の財政事情が厳しい中では、法人経営が順調に推移しつつ、大学債の規模が大きくなればなるほど、国としては運営費交付金の更なる減額の方向へと舵を切る事態も招きかねない。大学債を発行する国立大学のみが対象となれば、まだその影響は少ないかもしれないが、一律に全ての国立大学が対象となれば、独自の資金獲得力が乏しい国立大学への影響が危惧される。

 

(5)国立大学法人の分化
大学債は、全ての国立大学法人が発行できるが、発行しないところがあるとも考えられる。発行できる国立大学法人は、投資家が大学債を購入する魅力のある国立大学であることが望ましく、その大学の規模や研究実績、将来性などにより安定的な格付を得た、ブランドイメージがある一部の国立大学が優位に立つ可能性は否めない。一方、それら以外の国立大学にとっては、財源調達が思うように進まず、法人経営の大部分を運営費交付金に依存せざるを得ない状況にとどまる可能性もある。

 

5.おわりに
先述の「国立大学法人の戦略的経営実現に向けた検討会議」で示された中間とりまとめでは、国立大学法人と国との関係や経営裁量の拡大を可能とする規制緩和などに焦点を置き、国立大学法人における評価や内部統制の組織の在り方、先行投資財源の確保とその循環拡大など幅広い提言や方向性が示されている。長期借入金の借入れや大学債の発行についても、対象事業及び償還期間の更なる拡大、長期化の検討が必要とされている。
国立大学にはその歴史的経緯や役割、使命などがある一方で、世界や我が国を取り巻く経済社会の情勢の変化などにも対応していくことが求められる中、国立大学法人の将来の姿がどうあるべきかについては様々な議論があってしかるべきであるが、国立大学法人の自律的経営財源をどのように確保していくかという点で、今般の東京大学による大学債発行は、国立大学法人の将来を占う上で、一つの試金石になり得る。ただし、大学債発行が運営費交付金の削減につながるようでは本末転倒であり、飽くまで同交付金のプラスαとして、新たな資金を増やす一つの手段であると考えるべきである。
しかしそれでもなお、国立大学の法人化以降、国立大学法人の自主的・自律的な改善・発展が促進され、経営基盤を強化する流れの中、大学債発行による資金が一部の国立大学の収入の大部分を占め、併せて外部資金としての寄附金や受託研究などの受入額も増加し、さらには国立大学が有する不動産の貸付けや金融商品の運用29など自律的な財源確保の度合いが高まれば、運営費交付金の更なる減額などの議論が巻き起こりかねない。我が国の厳しい国家財政の現状を反映し、また、上述のような国立大学法人の分化も想定される中で、財政や教育、研究活動の面での拡差が広がる可能性もあり、それがひいては、国立大学法人の在り方そのものへの問いかけにもつながっていく可能性も考えられる。
東京大学にとどまらず、他の国立大学法人による大学債発行による影響がどのように広がっていくのか、今後の動向を引き続き注視していく必要がある。

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また、2003年には野村資本研究所により米国の学校債に関する記述や当時の日本の大学との比較なども報告されています。

 

出典:野村資本研究所 わが国における学校債の発行・普及に向けた課題

http://www.nicmr.com/nicmr/report/repo/2003/2003spr19.pdf

 

まだ日本では始まったばかりの制度ですが、大学経営においては今後に大きな影響と期待が持てる制度と考えられます。