経済産業省において、令和2年度予算案が公開されています。
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/index.html
■予算案の主要事項は下記PDFで閲覧できます。
・令和2年度予算(案)主要事項
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/pdf/keisanshoyosan1.pdf
・経済産業省関係 令和2年度当初予算案の概要
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/pdf/keisanshoyosan2.pdf
研究開発に関わる事業を中心に、予算案の概要資料から、新規予算あるいは変更が大きいなど着目すべき事業のいくつかを下記に抜粋します。
※()は前年度予算です。(新規)は新規事業です。
◆官⺠による若⼿研究者発掘⽀援事業【15億(新規)】 15ページ
破壊的イノベーションにつながるシーズ創出をより⼀層促すべく、官⺠が協調して有 望なシーズ研究を発掘し、これに取り組む若⼿研究者を⽀援。また、実施に際しては、 有望な若⼿研究者に伴⾛⽀援を⾏うとともに、官⺠協調による共同研究費等の資⾦拠出と、企業・⼤学双⽅での成果の共有を図る。
→文部科学省と関連が深いテーマに見えますが、若手研究者の育成・支援は2020年度の大学関連政策の大きな柱です。
PR資料は下記の通りです。(2)民間事業者を介した若手研究者と企業とのマッチング促進で、マッチングが目的になっているのが少し気になり、マッチング後も支援を行うハンズオンでいくべきか、あるいは特に関わらないハンズオフでいくべきかの議論は必要かと思います。ただ、ハンズオンをしっかりやるとなると人的コストもかなりかかるでしょうから、財源の関係もあるかもしれません。なんにせよ、ぜひ成功してほしいです。
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/pr/ip/sangi_05.pdf
◆グローバル・スタートアップ・エコシステム強化事業【13億(8億)】 10ページ
新たな価値を⽣むプレーヤー等を創出するエコシステムを構築するため、J-Startup企業等のスタートアップに対し、国内外展開や量産・事業化等を⽀援。また、JETRO等 の関係機関と協⼒した海外進出⽀援や、政府調達における優遇等を実施するとともに、 海外のベンチャーキャピタルやアクセラレーターのノウハウを取り⼊れる等、我が国における⾃律的なエコシステムの構築を後押しする。
→予算申請額が大きく増えています。今後はスタートアップを中心とした海外連携が一層重要視されると見込まれます。
PR資料は下記に掲載されています。フレンチ・テックに触れているあたり、世界の潮流を的確に捉えている感触を受けます。ユニコーン企業の創出は、日本経済の持続的成長の要となるだけでなく、ユニコーン企業が少ないことがイノベーション都市ランキングで日本の評価が低くなる大きな要因なので、エコシステムの形成とそれに伴う新文化醸成により、現状を打破することを期待しています。
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/pr/ip/sansei_04.pdf
◆研究開発型スタートアップ⽀援事業【28億(17億)】 10ページ
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じ、成⻑性を秘めた研究開発型スタートアップに対して、⽀援⼈材、ベンチャーキャピタル、研究機関、事業会社等の 協⼒を得ることを条件に、実⽤化開発等に係る費⽤等を⽀援。
→以前からある事業ですが、予算申請額が大きく増えてきています。最近では、NEDOの補助金に採択された企業がベンチャーキャピタルから多額の出資を受けるという事例がよく見受けられます。
PR資料は下記に掲載されています。成果目標が凄いですね。
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/pr/ip/sangi_04.pdf
成果目標 ①事業年度毎の支援終了1年以内に次のステージの資金調達に成功する割合が5割
②NEDOが本事業を開始する前と比較して、認定VCの研究開発型スタートアップに対 する投資額が2倍
◆ものづくり・商業・サービス⾼度連携促進事業【10億(50億)】 14ページ
複数の中⼩企業等が、事業者間でデータを共有・活⽤することで⽣産性向上を図る⾼ 度なプロジェクトや、地域経済牽引事業計画の承認を受けて連携して新たな事業を⾏ い、地域経済への波及効果をもたらすプロジェクトを⽀援。また、幹事企業・団体等 が主導し、中⼩企業等を束ねて⾯的に⽣産性向上を推進する取組を⽀援。
→中小企業にはなじみ深い代表的な制度ですが、本予算にも組み込まれる予定です。
PR資料は下記の通りです。
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/pr/ip/chuki_16.pdf
今回から賃上げ要件が追加されています。
※事業計画期間において、「給与支給総額が年率平均1.5%以上向上」、「事業場内最低賃金が地域別最低 賃金+30円以上」を満たすこと等を申請要件とします。 ※要件が未達の事業者に対して、天災など事業者の責めに負わない理由がある場合や、付加価値額が向上せず 賃上げが困難な場合を除き、補助金額の一部返還を求めます。
◆共創型サービスIT連携⽀援事業【5億(新規)】 14ページ
既存の複数のITツールを連携・組合せたシステムを中⼩サービス業等が導⼊する際にかかる費⽤を⽀援。また、その際、ITベンダーと中⼩サービス業等が共同でITツールの機能改善を進め、当該ツールの汎⽤化による業種内・他地域への普及を⽬指す取組を⽀援。
→DX関連ですが、多数のITツールが普及している中で、パッケージで導入することによって相乗効果が生まれる事例が増えるというのは好循環につながると期待できます。一方、企業ごとに業務フローや環境、人的リテラシーは大きく異なるので、横展開/最適導入に繋げるコーディネート役の人材が鍵になると想定されます。PR資料は下記の通りですが、「コンソーシアムの運営にかかる費用」が計上できるので、そのあたりは配慮されている感じを受けます。
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/pr/ip/shosa_04.pdf
◆地域・企業共⽣型ビジネス導⼊・創業促進事業【5億(新規)】 16ページ
中⼩企業等が、複数の地域に共通する地域・社会課題について、技術やビジネスの視点も取り⼊れながら⼀体的に解決しようとする取組を⽀援。また、起業家教育の導⼊を推進し、起業への関⼼や起業家に必要とされるマインドの向上を図ることにより、 将来の創業者の育成を実施。
→特に地方においては同種の課題を持つ地域が散在しています。課題解決策・手法・事例が確立され、他地域へ横連携できれば理想的なので期待したいと思います。一方で、共創型サービスIT連携⽀援事業同様にコーディネート役の存在と、地域間の連携関係・信頼関係・リテラシーが鍵になると想定されます。また、サービス提供側がスケールメリットを出せる事業展開に繋げられるかがビジネス的には鍵になると考えられます。「隣接地域を巻き込んだり」と書かれているのが少し気になっており、首都圏と地方との連携の必要性も出てくるかもしれません。ITによって地域課題を解決する場合、そのベンダーの多くが首都圏に集積する可能性が高く、首都圏のITベンダーと地域の中小企業あるいはITフリーランスのビジネス連携という枠組みで地域に普及させるということも原理上はありえるかもしれません。ただし、そこまでやるとなるとファシリテーターが必要なので、かなりの工夫が必要と考えられます。
◆JAPANブランド育成⽀援等事業【10億(新規)】 16ページ
中⼩企業等が、海外展開や全国展開、インバウンド需要の獲得に向けて新商品・サービス開発やブランディング等を⾏う取組みを⽀援。その際、 ECやクラウドファンディング、地域商社による輸出⽀援など、販路開拓の⼿法が多様化しつつあることを踏まえ、新たな販路開拓のノウハウを持つ⽀援事業者と連携した取組を重点的に⽀援。
→新規事業ですが、販路開拓支援は費用対効果がどうだったかのまとまったデータの有無とその分析は重要ですが、政策的には推進すべきと考えられます。
PR資料は下記の通りです。弊社でもグローバルオープンイノベーションの推進が今後の要なので、実は一番興味がある事業です。
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/pr/ip/chuki_15.pdf
◆⽔素社会実現に向けた⾰新的燃料電池技術等の活⽤のための研究開発事業 【53億(新規)】 17ページ
燃料電池⾃動⾞や定置⽤燃料電池の低コスト化、⾼効率化、耐久性向上のため、従来の⾼コストな触媒(⽩⾦を使⽤)に代わる⾮貴⾦属材料で⾼効率・耐久性向上を実現する触媒等の開発、加えて発電効率65%超を実現可能な燃料電池の開発を実施。また、 燃料電池や移動体⽤⽔素タンク等の多様な⽤途での活⽤に向け、製造プロセス等の技 術開発や技術実証を実施。
→白金レス触媒の燃料電池開発予算としてかなりの予算申請がなされており、移動体用水素タンクという単語も出てきています。
◆太陽光発電の導⼊可能量拡⼤等に向けた技術開発事業【30億(新規)】 18ページ
太陽光発電システムの設置に適した適地が減少する中、更なる発電効率の向上、軽量化等を可能とする⾰新的な太陽光発電システムの技術開発を⾏い、ビル壁⾯や重量制約のある⼯場の屋根、⾃動⾞やドローン等の移動体への設置を可能とする。また、太陽光発電の⻑期安定電源化を促進するため、発電設備の信頼性・安全確保や資源の再利⽤化を可能とするリサイクル技術の開発等を⾏う。
→太陽光発電の用途拡大を狙っている事業です。
少し変わったところでは、下記の事業が予算申請されています。
◆中⼩企業サイバーセキュリティ対策促進事業【4億(新規)】 6ページ
中⼩企業のセキュリティ対策⽀援体制のモデル構築に向け、地域特性、産業特性等を 踏まえながら、損害保険会社、ITベンダー、地元の団体等が連携して、各地で実証 (『サイバーセキュリティお助け隊』)を実施。
→新規事業としては興味深い取組です。サイバーセキュリティ対策は中小企業でも今後重要になると想定されます。
PR資料は下記の通りです。成果目標の一文である「令和3年度以降に民間による中小企業向けのセキュ リティ簡易保険サービスの実現を目指します。」がなるほどと感じられます。中小企業のセキュリティ対策については、リテラシーの差異があり、対策に対してどこまで費用を掛けて取り組むかというのもあり、事故が起こったときに多大な影響を被る可能性もあり、必要性は感じますが、未知数ですね。
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/pr/ip/shojo_09.pdf
◆AI⼈材連携による中⼩企業課題解決促進事業【6億(新規)】 9ページ
①解決すべき課題を媒介に中⼩企業等がAI⼈材とマッチングし協働で課題を解決して いくとともに、②成功事例の展開により、企業とAI⼈材の連携を進め、中⼩企業のAI 導⼊を促進。
→AI系の活用は最新情報の収集とリテラシー、経験が重要なので、人材とのマッチングは重要と考えられます。また、汎用パッケージとなっている安価で機能的にも使いやすいAI活用ソフトウェアもどんどん出てきているので、その普及を促すことは重要です。
PR資料は下記の通りです。下記の文章が必要性を感じつつ、重い感じですね。徐々にの流れになるかもしれません。
「(※)課題解決事例のソースコードや使用データなどをできる限りオープンにしてくことで、AI人 材側にとっても類似事例へ参画しやすい環境を目指します。」
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/pr/ip/shojo_10.pdf
◆キャッシュレス・消費者還元事業【2,703億】
令和元年10⽉1⽇の消費税率引上げに伴い、需要平準化対策として、キャッシュレス対応による⽣産性向上や消費者の利便性向上の観点も含め、消費税率引上げ後の⼀定期間に限り、中⼩・⼩規模事業者によるキャッシュレス⼿段を使ったポイント還元を⽀援。
→キャッシュレス関連の予算です。成果目標に「2025年までに⺠間最終消費⽀出に占める キャッシュレス決済⽐率40%を実現します。」とあります。都市部と地方部での目標比率に差があるのかが分からないですが、凄いですね。
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/pr/ip/shosa_11.pdf
また、下記ページにて「経済産業省 産業技術関係の施策の⽅針と令和元年度補正予算案・令和2年度当初予算案のポイント」が公開されています。
イノベーション・エコシステムの構築」が頭にあり、
(1)未来を創るシーズの開拓・育成/スタートアップ育成
(2)オープンイノベーションの推進
(3)国際標準化や国研の体制構築などイノベーションを⽀える基盤の整備
が挙げられています。前年までと比較すると、「国際性」がかなり重要視されてきたように感じます。また、「産学融合」という文言が新規に表れています。
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/pdf/sangyogijyutsu_point.pdf
◆産学融合拠点創出事業 予算案額2億円(新規)
産学融合は、産学連携3.0という流れで最近評判の出島論とも大きく関わっています。
PR資料は下記の通りですが、2つのプログラムが予定されています。
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2020/pr/ip/sangi_06.pdf
1.産学融合先導モデル拠点創出プログラム
• 地域ブロックにおける複数の大学と企業のネットワーク創設に向けて、
①民間団体等が実施する、専門人材を活用した産業界と大学のマッチングの場のデザイン、交流会等の実施、マッチングのための 研究計画等のブラッシュアップ等の支援
②また、マッチングの結果、産学の共同研究に向けて、大学等が技術シーズの市場性等を評価するためのFS調査等を支援する。
• こうした支援を通じ、産学融合に取り組む先導的なモデルとなる拠点を創出する。
2.地域オープンイノベーション拠点 選抜イニシアティブ
・これまで全国で形成されてきた地域におけるイノベーション拠点の中 で、企業ネットワークのハブとして活躍しているものを評価・選抜する 枠組みを創設する。
• 選抜イニシアティブを通じて優れた拠点としての“お墨付き”による信用力向上や、トップ層の引き上げ、拠点運営ノウハウの横展開、拠点間の連携等の促進等につなげる。
産学融合や出島論は文部科学省・内閣府も検討を進めているので、そのうちの経済産業省分と考えられます。経済産業省では全国に局があり、また、地域産業クラスター計画を昔から進めてきた経緯があるので、そのノウハウを改めて活かして成長に結び付けていくことが期待できます。ただし少し気になるのは、「地域ブロックにおける複数の大学と企業のネットワーク創設」という記載が、地域ブロックに留まるのではなく、将来的に広域的な地域ブロック間連携に繋がることが重要と考えられます。その壁は思いのほか高いかもしれませんが、地域オープンイノベーション拠点選抜イニシアティブの文面では「拠点運営ノウハウの横展開、拠点間の連携等の促進」と記載があり、少しずつでも取り組むことになれば、「地域ブロックを超えた産学融合」として概念が更に発展できるかもしれません。