科学技術・イノベーション基本法が2020年6月17日に参議院本会議で可決・成立しました。
出典:NHKホームページ 改正科学技術・イノベーション基本法 参院本会議で可決・成立
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200617/k10012473761000.html
一般財団法人新日本法規財団のホームページにて新旧対比表がまとめられています。
出典:一般財団法人新日本法規財団ホームページ
科学技術・イノベーション基本法の一部改正(令和2年6月24日法律第63号〔第1条〕 令和3年4月1日から施行)
https://www.sn-hoki.co.jp/article/pickup_hourei/pickup_hourei695888/
科学技術基本法の本格的な改正にあたります。そもそも日本の産学官連携が本格的に走り出したのは、大学等技術移転促進法(TLO法)が1998年に制定されたことが大きなきっかけと言われていますが、その前身としては科学技術基本法が1995年に制定されたことが発端で、その後に第一期科学技術基本計画が1996年に策定され、それをもってのTLO法制定の流れとなっています。詳細は下記をご参照ください。
出典:経済産業省ホームページ 産学官連携の系譜
https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/sangakukeifu.html
今までの経緯を振り返ると、このたびの25年越しでの科学技術・イノベーション基本法の成立は、日本の産学官連携をはじめとする科学技術政策の大きな転機になりえると言っても過言ではありません。
成立に至るまでの検討に関する公的資料を抜粋して振り返ります。
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出典:内閣府ホームページ 科学技術・イノベーション創出に係る制度改革の方針
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tougou-innovation/dai6/siryo5.pdf
1ページには下記のとおり人文科学に関する記載があります。
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※現行の基本法にはイノベーションの概念は導入されておらず、「人文科学のみに係る科学技術」は対象外。平成30年の議員立法による科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律改正時、検討規定が設けられている。
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「科学技術・イノベーション政策の理念を規定し、次期基本計画(令和3年4月~)に反映」という文言があり、改正した科学技術・イノベーション基本法が科学技術基本計画へ反映されていくことが読み取れます。
2ページ目には下記の通り見直しに係る事項が掲載されています。人文科学系の独立行政法人に関する取扱いや、日本版SBIR制度の見直しが目を引きます。
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「人文科学のみに係る科学技術」の追加
○ 基本法と同様の改正
人文科学のみに係る科学技術追加に伴う対象機関の拡大
○「人文科学のみに係る科学技術」の追加等に伴い、人文科学分野等の独立行政法人を科技イノベ活性化法で定める研究開発法人に追加
出資規定の整備
○産学官連携を活性化するため、研発法人の出資規定の整備を行うことを検討
※国立大学法人等については、政令での対応を予定
中小企業技術革新制度(日本版SBIR制度)の見直し
○日本版SBIR制度(Small Business Innovation Research)を科技イノベ活性化法に位置づけ、制度目的を中小企業の「経営強化」から「イノベ-ションの創出」に見直すとともに、内閣府を中心とした各省連携の取組等を強化
⇒産学官連携の活性化、ベンチャー支援強化によるイノベーションの創出等
※ その他これに伴う所要の改正(組織・事務を含む。)
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3ページ目には新たな日本版SBIR制度の概要案が掲載されています。
「日本版SBIR制度の重点を中小企業の「経営強化」から「イノベーションの創出」にシフト。」となされていることは特筆されます。
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根拠規定を「中小企業等経営強化法」から「科技イノベ活性化法」に移管。
中小企業者等への新技術に関する一定の研究開発予算(新技術補助金等)の支出機会の増大を図るため、「新技術補助金等の支出の目標に関する方針」を閣議決定。
新技術補助金等のうち、スタートアップ・中小企業等による科学技術・イノベーション創出の活性化を図る観点から、各省が統一的な枠組みとして執行するものを「特定補助金等」として指定。
特定補助金等の指定要件や交付の方法等は、「特定補助金等の交付等に関する指針」として閣議決定。 特定補助金等を受けた中小企業者等を対象とした事業化支援を実施。
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また、文部科学省ホームページでも科学技術基本法の改正に向けた検討資料が公開されています。
出典:文部科学省ホームページ 科学技術基本法等の改正に向けた検討状況
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/000033154.pdf
3-7ページ目には制度課題ワーキンググループの検討結果が記載されています。特に7ページ目には「産学官連携促進に向けた見直し」として、下記の記載がなされています。大学・研究法人の産学官連携機能を外部組織することに向けた検討が重点項目であることが読み取れます。
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○産学官連携の促進のため、民間事業者のニーズへの迅速な対応等が必要となるが、大学・研発法人における課題が存在。
○大学・研発法人の外部組織での業務実施を可能とすることで、①意欲ある大学・研発法人のポテンシャルの最大限の発揮、②連携の場の形成と成果の社会実装加速による国際競争力強化、③外部組織でのノウハウの大学・研発法人の改革への活用、が期待される。
⇒ ニーズが確認されたオープンイノベーション支援機能、ベンチャー創出支援機能、研究開発機能に係る業務を行う者への出資を可能とすべき(外部組織の在り方は法人が自らの将来設計に合わせ自主的に判断。また、出資は自己収入を原資とすべき)。
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その前身の資料として「科学技術・イノベーション創出の総合的な振興に向けた科学技術基本法等の在り方について」の資料が掲載されています。
出典:内閣府ホームページ
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/seidokadai/5kai/5kai.html
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/seidokadai/5kai/siryo1-1.pdf
10ページ目から(1)産学官連携の現状と課題、14ページ目から(2)大学・研究開発法人による外部組織設立の現状、15ページ目から(3)産学官連携促進のための新たな方策(外部組織を活用した共同研究等の実施)が掲載されています。
振り返りも踏まえて記載されていますが、外部組織化に関しては下記の通りまとめられています。
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(3)産学官連携促進のための新たな方策(外部組織を活用した共同研究等の実施)
〇国立大学等、公立大学、研究開発法人による出資については、法人の業務の際限ない肥大化を防ぐため、各法人の本来業務やそれに附帯する業務に係るものについて法律で定めるところにより認められているが、今回ニーズが確認された①から③までの機能に係る業務はいずれもこれらの法人が担うべき業務である。これらの業務について、法人の外部組織での実施を可能とすることにより、以下のメリットが期待される。
・ 大学・研究開発法人による、研究開発機能等を有する外部組織(株式会社等)の自主的・自発的な設立を可能とし、意欲ある大学・研究開発法人の産学官連携に関するポテンシャルを最大限発揮できること
・ 外部組織が本格的な産学官連携の場となり、大学・研究開発法人の研究成果の社会実装を加速して、企業等におけるイノベーションの創出を促し、我が国の国際競争力を強化することが期待されること
・ 外部組織において産学官連携の好事例を積み重ね、そのノウハウを大学・研究開発法人の改革に活用することができること
〇以上を踏まえ、上記①から③までを行う者に対する出資を可能とすることが適当である。
その際、これらの業務の一部を行う者への出資も可能とするとともに、複数の大学・研究開発法人による共同出資や、外部組織が担う業務によっては民間事業者との共同出資も認められるべきである。また、出資等の業務は、産学官における知識・資金の好循環の構築に資するものであるため、出資に充てる財源は原則として自己収入をその原資とすべきである。
〇これらの外部組織への出資や外部組織の在り方は、大学・研究開発法人が、自らの将来設計に合わせ、自主的・自発的に判断すべきものであるが、外部組織を民間事業者のニーズに対応し、産学官連携活動のエコシステムの一角を担うものとするためには、以下のような取組を外部組織において進めるべきである。その際、イノベーション創出の担い手として博士課程の学生等の役割が重要であることにも留意すべきである。
・ 大学・研究開発法人の研究成果の発掘・把握を主体的に担う専門人材の育成・配置
・ 民間事業者、社会等のニーズを踏まえたスピード感を持った組織運営の強化
・ 民間事業者、社会等を顧客と捉えたビジネス構想力、提案力の育成
・ 成果主義を取り入れたマネジメント、責任の明確化
・ 意欲ある研究開発従事者が、資金的、時間的に研究開発に専念できる環境整備
・ 利益相反のマネジメントや秘密保持の徹底
・ プロジェクトを通じた若手研究者、目利き人材の育成、人材交流
・ グローバルに人材を活用するための仕組み作り
・ 学生と契約を締結し報酬を支払うことによる学生への経済的支援
・ 他の研究開発機関等との連携
・ 地方自治体や市民との連携
・ ワンストップ窓口の設置
〇なお、研究開発法人については、研究開発成果の実用化を促進する観点から、既に 22法人に研究開発法人発ベンチャーへの直接出資が認められている。一方、国立大学等については、既に4大学においてベンチャーキャピタルが設立されているが、国立大学等発ベンチャーへの直接出資は、指定国立大学のコンサルティング、研修・講習を行う事業者を除き、認められていない。国立大学等についても、研究開発成果の実用化を促進する観点から、研究開発型ベンチャーも含め国立大学等発ベンチャーへの直接出資を可能とすることは有効な手段であると考えられるが、既に設立されているベンチャーキャピタルとの関係性等を整理する必要があり、現時点ではそれが不十分であるため、今後の検討事項とすべきである。
〇また、産学官連携の一層の促進のためには、国立大学法人等、公立大学法人、研究開発法人の現行の出資対象範囲について、社会の変化や大学等・研究開発法人のニーズに応じて、必要に応じて見直すべきである。
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下記資料の53-58ページには、「産学官連携促進に向けた制度的見直しについて(5)想定される外部組織のイメージ」の図が掲載されています。オープンイノベーション支援機能、ベンチャー創出支援機能、研究開発機能を事業概要(例)としつつ、多様な設立パターンが検討されています。
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/seidokadai/seidohokoku1-3.pdf
なお、「科学技術・イノベーション創出の総合的な振興に向けた科学技術基本法等の在り方について」については、日本学術会議を声明を公表しています。
出典:日本学術会議ホームページ 科学技術基本法改正に関する日本学術会議幹事会声明
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-kanji-4.pdf