科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業/ジョブ型研究インターンシップ/研究力強化・若手研究者支援総合パッケージの動向についてご紹介します。
文部科学省では、博士課程学生に向けた支援を大幅に強化しています。令和2年度の第3次補正予算案では、「我が国の研究力の抜本的強化に向けた取組の加速 」として312億円を計上しています。
◆我が国の研究力の抜本的強化に向けた取組の加速 312 億円
若手を中心とした研究者に対する創発的研究支援事業を拡充するとともに、博士課程学生に対する支援強化のため、自由で挑戦的・融合的な研究を行う博士課程学生を支援する事業の創設及びフェローシップ支援等を開始するために必要な体制の整備を行う。
出典:令和2年度文部科学省第3次補正予算(案)
https://www.mext.go.jp/content/20201214-mxt_kaikesou01-100014477-000_1.pdf
関連して、萩生田光一文部科学大臣による臨時記者会見録では下記のように記されています。
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先ほど申し上げた博士を目指す学生への経済的支援についてですが、これは、大学ファンドの創設に先駆ける形で用意したものであります。「研究力強化・若手支援総合パッケージ」の目標値である約15,000人に対して、研究費や生活費相当額が支給をできるように目指していきます。また、関連して、私から「博士を目指す学生のみなさんへ」というタイトルでメッセージを公表させていただきました。これからの我が国を背負って立つ博士を目指す方が、経済的な不安を抱えず、安心して博士課程へ進学するとともに、じっくりと腰を据えて、思う存分研究に打ち込んでいただければと思います。
出典:文部科学省ホームページ https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/mext_00120.html
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上記に記載されている「博士を目指す学生のみなさんへ」については、下記の内容となっています。
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博士を目指す学生の皆さんへ
現在、新型コロナウイルス感染症の拡大という誰も経験したことのない困難な状況が続いています。感染拡大防止のため、自由に大学を利用できず、思うように研究活動などが出来ない中、博士を目指す学生の皆さんが様々な工夫をしつつ研究に励まれてきたことに心から敬意を表します。
科学技術・イノベーションを担うのは「人」です。特に博士を目指す学生の皆さんは、将来、我が国を牽引する貴重な人材です。しかしながら、皆さんが経済的な面やキャリアパスへの不安から、博士課程への進学を断念する、あるいは研究活動にじっくりと打ち込めないという問題を抱え、新型コロナウイルスの感染拡大がさらに追い打ちをかけているこの状況は、看過できない深刻な問題だと考えています。
欧米では、博士課程学生の研究に支障の無いよう奨学金等が支援されています。我が国でも、世界レベルの研究基盤を構築する大学ファンドに先駆ける形で、博士を目指す皆さんへの経済的支援を拡大します。具体的には、自由で挑戦的・融合的な研究を推進する大学への支援等を通じて、より多くの博士課程学生の方々に、研究費や生活費相当額を支給することを予定しています。
これらの取組を通じて、「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」の目標値である約 15,000 人への支援の達成を目指します。また、高等教育、科学技術及び産業政策の全体を見渡して、RA(リサーチ・アシスタント)支援の促進など総合的な施策を講ずることにより、大学院生への一貫した切れ目のない支援をしっかりと行います。ぜひともじっくりと腰を据えて、思う存分研究に打ち込んでください。
これから我が国を背負って立つ皆さんが、経済的な不安を抱えず安心して博士課程へ進学できるよう、これまで以上に強力に博士課程の学生の皆さんを支えてまいります。そして、イノベーションの創出に向けて、博士が大きく活躍できる社会の実現に向けて最大限取り組んでいきます。
出典:文部科学省ホームページ
https://www.mext.go.jp/content/20201215-mxt_jyohoka01-000011639_01.pdf
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博士学生支援の意義については下記の記事が参考となります。
出典:newswitch 「博士学生はプロの研究者」という認識を定着させるべき理由
https://newswitch.jp/p/24266
基本的な指針として、「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」があり、この取り組みはそのパッケージの一部となります。詳細は内閣府ホームページに掲載されていますが以下に抜粋します。
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1.概要
2019年4月に文部科学省が策定した「研究力向上改革2019」を発展させ、人材、資金、環境の三位一体改革により、我が国の研究力を総合的・抜本的に強化するため、文部科学省、経済産業省と連携し、現場の研究者に対するヒアリングや、CSTI有識者議員による検討を実施し、この検討も踏まえ、2020年1月、総合科学技術・イノベーション会議において「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」を策定しました。
【施策の方向性】
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■科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業
文部科学省ホームページにおいて、本事業のロジックモデルが公開されています。課題と対応策について下記のとおり記されています。
(課題)
①「博士課程における経済的な不安」と「終了後のキャリアパスの不透明さ」への対応が必要
②産学を通じて人材ニーズの高い分野等での人材育成について、大学の戦略的な取組が必要
③博士学生支援のタイプの多様化(所属機関(大学)からの支援の充実)を図ることが必要
(対応策)
科学技術イノベーションの創出につながる、人材ニーズの高い分野において、①博士後期課程学生の処遇向上(フェローシップ)と、②キャリアパスの確保を、一体として実施する大学への新たな支援策を創設する。
(インプット)
○博士後期課程の進学者が減少傾向にある中で、人材ニーズが高まる分野で活躍できる若手研究人材の育成に向けて、優秀で多様性のある学生が経済的な不安や将来のキャリアパスへの不安なく博士後期課程に進学できる環境を整えるとともに、アカデミアや産業界のニーズを踏まえた研究活動の充実やキャリアパスを見通せるような取組を推進する。
(令和3年度~5年度の予算案)
令和3年度 2,856,667千円
令和4年度 4,523,333千円
令和5年度 6,190,000千円
出典:文部科学省ホームページ
https://www.mext.go.jp/content/20201014-mxt_kaikesou02-000006043_2_13.xlsx.pdf
本事業の初回の公募は、以下のホームページで公開されました。補助事業期間が令和10年3月までとなっていることが特筆事項です。一方で、補助事業終了後は自立的運営が前提とされています。
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・選定予定件数:ボトムアップ型・分野指定型を合わせて55件程度
※重複申請を認めているため、件数は延べ数となっています。
・選定予定人数:ボトムアップ型・分野指定型を合わせた全体の支援人数は、年間1,000人程度
・補助上限額:
フェローシップ:支給対象学生1人当たり200~250万円/年
事務経費:1,200~5,500万円/年
※事務経費の上限額については、採択件数・支給学生数により変動します。
※令和2年度(令和3年3月)においては、令和3年度4月からフェローシップを支給するための事務経費に充当可能な補助金上限1,000万円の定額補助
・補助率:
令和2年度準備事業:定額補助
令和3年度本事業 :2/3
・補助事業期間:令和3年3月から令和10年3月まで
※補助事業によるフェローシップ支援対象は令和7年度の博士後期課程進学者まで。
※補助事業期間終了後には各機関は自立的運営を確立することが前提となります。
出典:文部科学省ホームページ https://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/fellowship/1419245_00002.htm
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公募要領の「事業の概要」を抜粋します。フェローシップの支援金研究専念支援金や事務費用を大学に対して補助するとしています。
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2.事業の概要
「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業(以下、「本事業」という。)」では、研究に対する意欲を有し、将来の我が国の科学技術・イノベーション創出の重要な担い手となる博士後期課程進学者に対し、研究専念支援金(生活費相当額、180万円以上)と研究費からなるフェローシップの支給と、博士後期課程修了後に安定的で研究に専念できる環境を提供できるポスト確保に取り組む大学に対し、補助金を支援します。なお、令和2年度は、「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設準備事業(以下、「準備事業」という。)」として、上記取組を実施するための準備を行う大学に対し、補助金を支援します。
大学は、申請に当たりフェローシップ支給やフェローシップ支給対象学生の審査等に係る学内規程を整備する必要があります。
そのうえで、将来に向けて研究活動の強化を図る分野を明らかにした戦略的な支援対象を設定し、育成を目指す人材像と修了後の活躍の姿を意識した具体的な支援計画(目標)を策定し、補助金の支援に係る申請書を文部科学省に提出します。
文部科学省は、外部有識者で構成された委員会による審査に基づき、支援対象となる大学を決定します。そのうえで、文部科学省は支援対象となる大学に対し、フェローシップに係る費用、キャリアパス支援の実施や事業体制に伴う事務経費を支援します。
なお、準備事業・本事業の実施は、令和2年度補正予算及び令和3年度予算が成立することを前提とします。予算の状況等によっては、内容等に変更があり得ることをあらかじめ御承知おきください。
出典:科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業公募要領
https://www.mext.go.jp/content/20201225-mxt_kiban03-000011739_1.pdf
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ここで、ボトムアップ型、分野指向型という文言がありますが、このタイプについては下記の資料が参考となります。
「分野別の人材ニーズの乖離」がもっとも重要な論点であると考えられます。また、グラフ中で、下記3区分に分けられていることも見過ごせません。企業ニーズやイノベーションニーズがあることを前提とした上での博士人材支援の重要性が問われていると考えられます。
○企業における業務で重要な専門知識分野
○事業展開・成長に重要な専門知識分野
○各分野の研究者数
(ボトムアップ型)
大学の強みや地域の強みを生かしたイノベーション創出等が見込まれる幅広い分野を対象として支援(大学が分野等を提案)。
(分野指向型)
現在、重要な分野として政府が戦略を策定している、または策定する予定の分野(情報・AI、量子、マテリアル等)を中心に指定し、支援(産業界等における人材需給を勘案して決定)。
(分野別の人材ニーズの乖離)
○産業界においては、機械、電気、材料、情報、人工知能(AI)などの分野におけるイノベーション人材のニーズが高く、博士人材の供給過剰も全分野に及ぶものではないと考えられる。
⇒ 各分野における人材ニーズに対応した、博士人材の育成・確保が行われることが必要
出典:科学技術・学術審議会人材委員会(第90回)
https://www.mext.go.jp/content/20201204-mxt_kiban03-000011280_4.pdf
なお、本公募に関連して、令和2年度文部科学省関係第3次補正予算(案)事業別資料集の27ページでは、「事業の目的・目標」として下記のとおり記載されています。前記のとおり令和10年3月までの補助を想定した事業期間ですが、一方で「大学への新たな補助金を令和3年度に創設すべく、支援機関の早期採択を実施。」としており、喫緊の課題とみなされていることが読み取れます。
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○①博士課程学生の処遇向上(生活費相当額(180万円以上)の支援を含むフェローシップ)と、②キャリアパスの確保(博士課程修了後のポストへの接続)を、全学的な戦略の下で、一体として実施する大学への新たな補助金を令和3年度に創設すべく、支援機関の早期採択を実施。採択機関において、対象学生の選定や、先行的な体制整備等を令和2年度中に実施し、令和3年度当初からの学生支援を遅滞なく開始する。
出典:令和2年度文部科学省関係第3次補正予算(案)事業別資料集
https://www.mext.go.jp/content/20201214-mxt_kaikesou01-100014477-000_2-1.pdf#page27
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■ジョブ型研究インターンシップ
博士人材支援については「ジョブ型研究インターンシップ」という制度も検討が進んでいます。
下記の資料は令和2年2月時点の資料ですが、修士課程および博士前期課程におけるジョブ型研究インターンシップのイメージが掲載されています。
出典:文部科学省ホームページ 卒後通年採用を活用する新たなインターンシップ(ジョブ型研究インターンシップ)【試案紹介と検討の御願い】
https://www.mext.go.jp/content/20200217-mxt_senmon01-000004747_1.pdf
また、令和2年9月には、「ジョブ型研究インターンシップ【提案内容と今後の進め方】 」が公開されています。背景、概要、目指す効果、今後の進め方について抜粋します。
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(背景)
「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」(令和2年1月総合科学技術・イノベーション会議)にて、『企業との連携による長期有給インターンシップの推進』、『博士課程学生の長期有給インターンシップの単位化・選択必修化の促進』が主要施策として位置づけられたことを踏まえ、文部科学省が内閣府、経済産業省の協力のもと、具体的なインターンシップ枠組み等を検討
(概要)
「研究遂行の基礎的な素養・能力を持った大学院学生」による「研究インターンシップ」。「長期」かつ「有給」で、企業のジョブ(職務)に挑戦・実践大学院の正規課程(修士課程・博士後期課程)の教育プログラムに「単位科目」として位置づけ。希望する学生の選択制(「選択必修科目」)本インターンシップは「教育目的」で行われるものであり、その挑戦・実践の成果については、企業側も適切に評価。また、博士後期課程学生のインターンシップは、その結果(学生情報)を企業の採用選考活動に使用することが可能なことから、企業の「ジョブ型採用」との円滑な連結を期待
(目指す効果)
学生:
質の高い「ジョブ型研究インターンシップ」の実施により、Society5.0時代の産学共同教育を実現し、学生の能力伸長(より実践的な経験や新たな気づき)とキャリアパス多様化(活躍の場拡大)に資する。
大学:
学生のキャリア形成等の観点から、修士課程・博士後期課程の教育プログラムの中に位置づけて活用することで、研究力の強化、大学院教育の実質化を図る。
企業:
学生の発想を生かして、研究開発の加速や新たなイノベーションを創出。Society5.0時代のダイバーシティ経営と採用・雇用の多様化・複線化を見据え、「ジョブ型採用」との円滑な連結を図るとともに、企業の研究開発現場等に適応する能力の高い、優秀な人材を確保することで、産業技術力の強化に資する。
国全体:
大学院段階のインターンシップ効果を最大化し、産学協働で我が国の研究力、イノベーション力を強化する(修士課程は就職・採用活動の早期化・長期化による影響等への対処)。
(ジョブ型研究インターンシップの今後の進め方)
《基本的な考え方》
★研究遂行の基礎的な素養・能力を持った大学院学生による、質の高い研究インターンシップを実施
★まずは、産学において研究インターンシップの実績がある博士後期課程から積極的に実施
※ 修士課程については、学生のキャリア形成、研究力強化の観点から、大学院の正規課程の教育プログラムの中で、どの時期に、どのような方法で組み込むことが最も効果的か、各大学にて検討
★「学生」・「企業」・「大学」のメリットが最大化され、エコシステムとして機能させる観点から、先行的・試行的な取組を行いながら検証・改善を重ねていくアジャイル型の手法で実施
出典:文部科学省ホームページ ジョブ型研究インターンシップ【提案内容と今後の進め方】
https://www.mext.go.jp/content/20200924-mxt_daigakuc03-000010089_4.pdf
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本資料については、下記の会議録中で考え方の説明および質疑応答がまとめられています。
出典:大学院部会(第98回) 議事録
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/004/gijiroku/1422799_00003.htm
以上のとおり、ジョブ型研究インターンシップについても博士人材支援にかかわる大きな事業となる可能性があります。