近年、大学の知を生かしたコンサルティング・研修機能を持つ会社など、大学関連外部組織の設立・拡大が注目されています。代表事例として東北大学ナレッジキャスト株式会社、京大オリジナル株式会社、東京大学エクステンション株式会社などが挙げられます。
■東北大学ナレッジキャスト株式会社 http://tohoku-kc.co.jp
社会におけるイノベーション創出に向けて、東北大学の卓越した研究成果や研究者の深く広範な知見を活用して、企業が抱える様々な事業課題の解決や技術的なブレークスルーの実現を支援する「コンサルティング事業」と、その前段階として、企業の技術者や事業開発を担う人材に対して、東北大学の先端的な研究成果を紹介する技術解説セミナーや様々な分野のイノベ―ティブ人材を育成し後押しする研修・講習事業を展開しています。具体的な方針は下記Webサイトで紹介しています。
東北大学がコンサル会社、産学連携を推進 まず健康分野
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO52311780Y9A111C1L01000
東北大、大学の研究成果を社会に普及させる事業会社ナレッジキャストを設立
https://news.mynavi.jp/article/20191126-928811/
■京大オリジナル株式会社 https://www.kyodai-original.co.jp
京都大学の100%子会社です。「「京大の知」を発掘し、解放する」を企業理念のコンセプトとしており、事業内容としては国内外の企業等とのネットワークを構築・強化し、主として「コンサルティングサービス」「研修・講習サービス」を提供しています。背景として、国立大学法人法第34条の5に定める出資認可を受けて設立され、特定研究成果活用事業を実施しています。下記のWebサイトで取組内容が紹介されています。
京都大学子会社の「京大オリジナル」、いったい何をする会社なのか大西取締役に聞いた
http://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00001/01030/
企業の経営課題に京都大学が一丸となって取り組む -京大オリジナル大西氏が語る新しい産学連携とは-
https://bizzine.jp/article/detail/3338
株式会社池田泉州銀行との業務提携、京都リサーチパーク株式会社との包括連携協定、株式会社データグリッドとの業務提携契約など、様々な機関との連携も発表されています。
https://www.sihd-bk.jp/fresh_news/0000001322/pdf/fresh.pdf
https://www.krp.co.jp/news/detail/908.html
■東京大学エクステンション株式会社 https://www.utokyo-ext.co.jp
東京大学の100%子会社です。データサイエンススクールなど、社会人教育向けプログラムを提供しています。
東大が子会社でデータサイエンス教育に乗り出す訳
https://webronza.asahi.com/science/articles/2018122500001.html
■ 株式会社Tokyo Tech Innovation
2020年4月1日付で設立し、東京工業大学の子会社として講習事業・研修事業・コンサルティング事業・共同研究事業などを提供しています。
https://www.titech.ac.jp/news/2020/047014.html
いずれも指定国立大学法人に認定された大学の出資による会社です。京大オリジナル株式会社、東京大学エクステンション株式会社の代表者はそれぞれ株式会社TLO京都、株式会社東京大学TLOの代表者も兼ねています。
この他にも、大学に埋もれている知識やノウハウの活用、あるいは大学運営にかかわるノウハウ等を生かしたサービスを提供する事業者は以前から活動しています。例えば、早稲田大学アカデミックソリューション株式会社、青山学院ヒューマン・イノベーション・コンサルティング株式会社などが挙げられます。
■早稲田大学アカデミックソリューション株式会社 https://www.w-as.jp
早稲田大学の関連会社として、長年にわたって大学運営に必要なソリューションを提供しており、国際交流、大学職員人材育成、語学教育、研究推進など大学に特化した知識・経験・専門性で新たな価値を生み出すためのサービスを提供しています。
早稲田大学だけでなく様々な大学や、国立研究開発法人科学技術振興機構、特定非営利活動法人JAFSA(国際教育交流協議会)、公益財団法人大学基準協会など大学に限らず幅広い組織にサービスを提供されています。
■青山学院ヒューマン・イノベーション・コンサルティング株式会社 https://www.aogaku-hicon.jp
青山学院と大学教員による共同出資によって2008年に設立した企業です。多くの国家プロジェクトや地方自治体事業、産学共同研究、国内外の他大学との積極的な大学連携等を推進した実績があり、「国際社会や経営革新などの未来志向リーダーの人材開発」と事業創造・顧客創造・組織創造を支援するコンサルティング」を推進しています。
また、TLOの一部では、技術移転ライセンス事業に関わる業務のみならず、地域課題解決・企業課題解決に関わるサービスを提供する企業があります。例えば、株式会社信州TLO、株式会社産学連携機構九州などが挙げられます。
■株式会社信州TLO http://www.shinshu-tlo.co.jp
信州大学等の大学シーズを企業へライセンスするなどの技術移転業務を行っています。一方、信州大学の学生と企業との就職活動のマッチングを行う合同企業説明会なども開催しています。
■株式会社産学連携機構九州 https://www.k-uip.ci.jp
九州大学で生まれた「知」の社会還元を目的とし、特許のライセンス事業のほか、産学連携拡大事業(新事業・新産業創造)、地域産業支援事業(地域課題貢献)のサービス事業を展開しています。地域産業支援事業では、例えばPPPに関する講座やセミナー等を通じた官民の人材育成や啓発活動、その他調査研究等について九州内を中心に行う九州PPPセンター、農林水産物の輸出促進に関するあるべき姿を共有し、利害関係、産地間の垣根を超え、農林水産物の輸出全般にかかる課題の明確化、産学官によるスピーディーな課題解決の体制構築をリードすることを理念として「農林水産物の輸出促進研究開発プラットフォーム」事業を推進した活動なども行われています。
弊社でも企業様のニーズに基づいて全国の大学等研究者のシーズをマッチングして解決を行うコンサルティング業務について会社を設立して早い時期から提供していますが、研修関連では、包括コンサルティングサービスの一部として、大学研究者の協力を得た上での研修事業、定年退職した元大学等研究者による教育支援サービスなども行っています。
■包括コンサルティングサービス
https://www.campuscreate.com/consulting
■定年退職した元大学等研究者による技術開発・教育支援サービス
https://www.campuscreate.com/transaction
また、電気通信大学・データ関連人材育成プログラム データアントレプレナーフェロープログラムのコンソーシアム会員となり、トップレベルのデータサイエンティスト育成に向けた取組の運営に携わっています。
データ関連人材育成プログラム データアントレプレナーフェロープログラム
https://de.uec.ac.jp
弊社の企業様向け社内研修はノンディグリーですが、上記のデータアントレプレナーフェロープログラムでは電気通信大学が定める高度技術研修制度に基づき選考の上、高度技術研修生「データアントレプレナーフェロー」として履修を認める制度です。
リカレント教育を代表に社会的に人材育成の重要性は一層増していますが、大学の知やノウハウを活用した人材育成プログラムの場合は、学位等の兼ね合いが受講生のキャリアにも少なからず影響を与えるため、勘案すべき事項となります。
上記と関連するTLOの在り方として、経済産業省にて実施した「地域レベルの産学連携機能強化に係る方法論に関する調査」の調査報告書が公開されており、TLOがファシリテーション機能を持ち、技術移転事業以外にも、様々な企業等の課題解決に資するサービスを提供する必要性と課題、可能性について言及されています。
http://www3.keizaireport.com/report.php/RID/343156
また、政府は総合科学技術・イノベーション会議等において、大学や国の研究機関が本体から切り離れた「出島」のような機関を設立することを積極的に検討しています。例えば国内外の企業から協力を得ながら機動的な研究を後押しするために身軽な組織を作るなどが検討事項となっています。
第44回総合科学技術・イノベーション会議 議事要旨
https://www8.cao.go.jp/cstp/siryo/giji/giji-si044.pdf
少し踏み込んだ議論では、「大学・国研の外部化法人制度(仮称)について」と題して内閣府の資料が公開されています。
https://www.mext.go.jp/content/1422022_006.pdf
6ページでは、外部化法人の機能として下記が挙げられています。
1)共同研究実施機能
➢ ドクターやポスドク等の雇用による研究体制の充実
➢ 成果に応じた報酬等の処遇
➢ 経理の明確化による適正な間接経費の確保
➢ 他大学、国研、民間企業との連携研究の場
2.オープンイノベーション機能 (TLO機能+共同研究促進機能+会員制共創機能)
➢ 大学等に蓄積した成果を産業につなぐ企画提案 (共同研究組成、TLO)
※内容に応じて、外部化法人が実施 or 大学へのつなぎ
➢ 専門人材による研究/知財マネジメント
3.データ蓄積機能
➢ 大学等の研究室レベルの動向を把握し、実験データ 等を蓄積
4.ベンチャー創出機能 (ベンチャー設立育成支援機能+VC機能)
➢ 大学/国研発ベンチャーの立上げ支援
➢ ベンチャーキャピタルとして資金支援
5.基金(エンダウメント)機能
➢ 得られた資金を基金化して運用
➢ 大学等への資金還元
6.ポスト確保機能
➢ 優れた退官教授、若手研究専従者、支援者、 URAや知財専門家等の雇用
7.大学等業務サポート機能
➢ 大学等が行っている知財管理業務、URAによる サポート等の業務を受託
8.研究拠点形成機能
➢ 特定分野に関し、大学、国研、産業界が連携する 場として国の支援を集中
9.その他機能
※一つの民間法人として機能を保有する形式以外に、既に設立 されているTLOや大学VCを取込んで一体的にマネジメントできるよう、 異なる機能を保有する複数の民間法人をホールディングする形式 での外部化法人も可能とすべく検討。
上記1~9のうち、弊社が手をつけていない事業としては、
1.共同研究実施機能
5.基金(エンダウメント機能)
8.研究拠点形成機能
となります。それ以外は程度の大小はあれ、取り組んでいます。
手をつけていない理由としては、1.と8.は制度面・大学との組織面の違いによるものです。
5.は、そもそも弊社は大学の出資を受けない方針(経営上の独立性、自由性、スピードを重視)であるため、基金というのはなじみません。ただ、大学等への資金還元という意味では取り組んでいるとも言えます。
1.から9.に含まれていない中であえて挙げるとすると、国際展開は別項目で明記しても良いようにも考えられます。
なお、日本経済新聞にて企業と共同研究する株式会社を大学外に設立できるようにする旨が掲載されています。
国立大の産学共同研究、学外の会社でOK 規制見直し
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54163770Y0A100C2EE8000/
また、大学ではありませんが、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律に基づき、国立研究開発法人理化学研究所の全額出資による株式会社理研鼎業も2019年9月5日付で設立登記申請しています。株式会社理研鼎業は、理研からの受託により、研究成果の社会還元、産業界との連携促進などの業務を実施し、理研の研究活動の充実等に寄与することが期待されると述べられています。
株式会社理研鼎業の設立について -理研の新たなイノベーション促進方策-
https://www.riken.jp/pr/news/2019/20190906_1/index.html
上記のように大学関連外部組織は以前からありましたが、指定国立大学法人の認定拡大や出島論、TLOファシリテーション機能の必要性などから、近年普及が広がりつつあります。その中で弊社の経験からすると、外部組織運営でまず重要だと考えていることは大学との円滑な連携体制です。
URAや産学連携部門等の立場を理解・尊重したうえでコミュニケーションを図ることは当然ですが、大学の資金不足・人員不足でURA・研究者・大学事務職・研究室学生など多くの人材の多忙さが年々増しているケースも多々あるので、極力負担をかけない中で、有効な連携を図るモデルを作ることです。昔、知的財産本部整備事業に基づき大学の知的財産本部が相次いで発足した時期にはTLOと知的財産本部の業務が一部バッティングするというケースが多発していましたが、その教訓を生かすことは今でも重要です。大学のガバナンスが今でも課題視される背景を理解し、個々の組織構造の分析・理解を踏まえた適切な連携が必要です。弊社でもTLO認定当時は様々な組織から人材を受け入れたり大学と連携した業務量も急増していた時期だったため、個人のミッションが少しずつ異なる人材が集団として活動する上で、いかに理念を共有し、組織文化を作りながらチームとして取り組むかは改善を通しながらノウハウを少しずつ蓄積していった背景があります。
その上で、企業様向けのサービスを提供する場合は、サービスサイエンスの観点・体制が重要であり、その組織化にあたっては社内風土・文化醸成をどう図るかが肝となります。マインドセットは特にスタートアップ界隈ではよくクローズアップされる事項ですが、大学関連外部組織はまだまだ事例・交流が少なく、その必要性が言及される場は多くありません。それを前提として企業様が価値を享受でき事業として成り立つ優れたサービスモデルの開発が必要となります。そして、そのサービスモデルが個々の組織に特化したモデルか、プラットフォーム型のモデルかも類型化が進んでいくと考えられます。
今までの経緯と事例、動向を弊社の経験談を交えて紹介しました。大学関連外部組織の普及促進は、研究支援サービス・パートナーシップ認定制度と合わせて大学の知をさらに社会還元しやすくする新しい潮流と言え、産学連携業界の活性化を図る上でも大いに期待しています。