日本の産学官連携は海外の大学の成功をもって日本で制度導入されました。昨今でも大学の産学官連携部門の体制や取組みは未発達な面が残っており、海外の大学やイノベーション・エコシステムの最新事例を参考にしようという国や大学の動きがあります。
一方、日本と海外では大学の風土や制度・外部環境面・内部環境体制面などで大きく異なる面が多々あり、また日本国内でも大学や地域によって制度や体制はまちまちです。そのため、海外での成功事例をそのまま適用すべきかは十分な検討が必要と言えます。また、仮に適用するにしても(適用の程度はさておき)、モデルケースとなる具体的な参考事例を収集し、学内での理解や調整・組織変革を行うには、その背景や成功理由を十分に理解してリーダーシップを取ってマネジメントしていく必要があります。
海外の大学やイノベーション・エコシステムの最新動向や付帯する基礎データが記載されているレポートは多くはありませんが、例示として下記をご紹介します。
なお、イノベーション・エコシステムの概念は非常に重要であり(大学・産学官連携の振興だけでなく地域振興にも通じます)、その重要性を理解して形成していくことは高度なスキルを要します。必要性・重要性を感じることが第一歩ですので、その上でもご参考ください。
【国際技術連携と海外拠点】
※独立行政法人経済産業研究所ホームページ
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/19030025.html
日本企業が海外大学との間で技術面での連携を行う際に、当該企業が連携パートナーの所在国に海外拠点を保有していることや、連携パートナーの所在国のタイプがどのような影響を及ぼすのかを明らかにしています。また、製造業に属する日本の上場企業のサンプルを分析した結果、第一に、連携パートナーの海外大学の所在地に企業の子会社などの海外拠点が存在している場合には、当該企業の研究開発パフォーマンスが高まることを示しています。第二に、連携パートナーの海外大学の所在地が先進国である場合には、当該企業の研究開発パフォーマンスが高まることを示しています。国際連携をどのように実施するか、あるいはどのような国の連携相手を選択するかにより企業の研究開発活動の成果が影響を受けることが示唆されています。
日本の企業が大学に拠出する研究費は、日本の大学よりも海外の大学の方が多くなりがちであり、これは昔からの傾向でした。その定性的分析は十分ではなかったのですが、本報告書では新しい切り口からの傾向分析にも関わるもので、また、本質的に共同研究の大型化にも関わるものと言えます。
すなわち、今までの議論では、大学研究者の提案力や研究環境、組織文化・制度に関する日本と海外の大学の違いが大きいものと言われており、それが共同研究費の大小にも関係し、それはまさしくその通りですが、より踏み込んだ議論として、そもそもなぜ日本企業が海外大学と連携するか、あるいは連携する際の自社の環境・ポテンシャル・技術連携に取り組む動機が共同研究を行ったときのアウトプットとどのように関係するかを視点として持っています。
例えば、興味深い記載としては下記があります(19ページ)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これらの結果を考察すると、以下のような示唆が得られる。
まず、国際産学技術連携を実 施している企業の研究開発成果は、国内の産学技術連携のみを実施している企業に比べ、必 ずしもその費用対効果が高いわけではないことがわかる。企業が外国の研究機関との国際技術連携に乗り出す際には、注意を要する点であろう。
その一方で、企業の持つ海外拠点などの様々な経営資源をうまく活用することで、国際連携を実施していても効果的な研究開発パフォーマンスを発揮することができると思われる。逆に、海外拠点所在地と無関係に国際連携をしている企業は、研究開発成果の効率性が低くなっている。また、所在国のタイプという意味で国際連携パートナーの機関を適切に選択することで、 国際連携を実施しつつも高い研究開発パフォーマンスを発揮することができるともいえる。 しかし、このことはむしろ企業の国際連携の目的がパートナー機関の所在国のタイプによって異なっていることを示唆していると考えるのが自然であろう。つまり、研究開発成果の 獲得だけが国際的な産学技術連携の目的ではない。新興国中心の産学技術連携を実施して 20 いる企業は売上高成長率がより高いことがこのことを裏付けていると思われる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
国際連携のアウトプットデータをもとに分析していくスタンスは非常に重要であり、20ページには下記の記載があります。本質的には、日本国内でも共同研究のアウトプットを基礎データとして産学連携のあり方を分析していく観点は重要であり、そのような調査報告はほとんどないのですが、このような国際連携の研究活動を通じて間接的に見えてくる傾向要素の抽出、学びもあるかもしれません。今後の研究報告に期待しています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本研究の今後の発展の方向性としては以下の点が挙げられる。まず、本研究においては企業を分析単位とした検証を行ったが、技術連携の結果出版された論文に焦点を当ててより 詳細な研究者レベルや文献レベルの分析を行うことや、技術連携から生まれた発明に基づく出願特許を特定することにより技術連携が企業の研究開発成果に与える影響をより直接的に検証することが考えられる。
また、本研究では技術連携と研究開発成果の関係に焦点を絞ったが、両者と企業の海外での市場戦略との関係を明らかにすることも今後の課題としたい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【海外大学における産学連携のマネジメント・制度に関する調査】
※文部科学省ホームページ
http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/sangaku/1409478.htm
2018年に文部科学省から公表されました。株式会社三菱総合研究所により調査され、産学連携の先進国である米国の有力大学等におけるマネジメントの実情を調査し、日本の大学の産学連携のマネジメントとの比較を通じて、日本の大学が優先して取り組むべき課題・取り組みを調査・分析することを目的として成果報告書がまとめられています。
米国ではマサチューセッツ工科大学、ニューメキシコ大学、スタンフォード大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校、カリフォルニア工科大学、英国ではケンブリッジ大学、オックスフォード大学、インペリアル・カレッジ・ロンドン、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、スイスではスイス連邦工科チューリッヒ校、ドイツではアーヘン工科大学、シンガポールではシンガポール国立大学、南洋理工大学などの産学連携のマネジメント・制度が紹介されています。
調査項目は下記のとおりです。
A.全学的な組織・人材
・産学連携活動(民間企業との共同研究、リエゾン活動、 技術移転)に係る体制(TLO 含む)、実績などの基本情報 (国際産学連携を含む)
・産学連携組織の設立経緯、ミッション、活動内容、収支 状況、人員体制、インセンティブ
・産学連携組織の人材(企業の大型投資を呼び込むプロフェッショナル人材)のミッション(使命)、キャリアパス、インセンティブ、業務内容、雇用形態
・研究副学長(プロボスト、VPR)、研究主宰者(PI)などの責任者の産学連携活動における役割・機能と権限
・教員組織と事務組織の教職協働の状況
B.内部制度
・産学連携活動に参画する研究者の人事評価方法(昇給、昇任)、インセンティブ(給与、研究資金、スペース等)
・産学連携収入(間接経費、ロイヤリティ)など民間資金運用制度(使途)
・外部から得られた収入をどのように大学の資源としているか
・個別の共同研究プロジェクトの費用対収益の分析状況(管理会計の活用状況等)
C.研究プロジェクトの各プロセスにおける人・金・情報のマネジメント
C-1.関係構築・プロジェクト組成
・共同研究プロポーザルのプロセス、構成、内容(具体的事例を含む)(誰がどのようにして提案まで至っているのか)
C-2.契約
・大学の便益を最大化するための契約交渉(共同研究の金額設定、知的財産権の帰属等)
・共同研究経費(教員人件費(教員の人件費を直接経費から支出する際のルール)、知的財産経費等)の積算方法
・機密情報の保持契約の方法
C-3.実施
・産学連携活動のプロジェクトマネジメント
・産学連携活動に参画する研究者のエフォート管理
D.外部環境(政策、制度など)
・国外企業を共同研究相手とする際の制約(国内企業との違い)
・我が国の大学と比較し、海外大学への投資がしやすい環境(規制緩和)の状況
・政策的に公的支援等と連動させることにより、産学連携を促進している具体的事例(当該政策や、そうした政策と連動した
大学の取組)
・大学をとりまく地域のエコシステム
・産業界への期待
例えば米国の大学の動向として下記の調査結果などが記載されています。
■研究者の立場として、公費か企業かを問わず研究費を獲得して、学生(大学院生)をリクルートし、その学生の人件費を自身の研究費から支払い、論文執筆を行うという構図になっていると記載されています。教員が企業との共同研究を実施するモチベーションは、研究成果が商業化にインパクトをもたらすことを見届けることであり、次いで研究費獲得とされています。また、理工学系において、研究費の多くの場合、研究者の昇進のための物差しとなり、産学連携活動等の商業活動も加味されるとされています。
このあたりの制度は日本とは大きく異なります。(成果報告書25ページより)
■スタンフォード大学では、年間の収入実績は大学本体のみで約4,855億円(2016年度)で、主な財源は受託研究等が約29%、投資収入が約23%となっています。投資収入が約1200億円にもおよぶことは特筆であり日本とは大きく異なります。(成果報告書30ページ)
■日米の大学における産学連携の違いについて、複数の米国大学、米国企業で産学連携に従事した立場である大津賀 伝市郎氏による米国大学の産学連携体制、プロセスについてインタビュー結果が記載されています。(成果報告書66-68ページ)
■産学連携の事例として、トヨタ自動車はスタンフォード大学人工知能研究所およびマサチューセッツ工科大学コンピューター科学・人工知能研究所と人工知能にかかわる研究で連携し、約50.3億円を投じて、それぞれのセンターと連携研究センターを設立することを決めています。(成果報告書31ページ)
世界最先端の研究開発力・体制・提案力が大型の資金を呼び込むことを想起させます。
■成果報告書69-70ページのまとめは米国大学の実情を記した文面であり大変参考となります。以下が抜粋です(70ページ)。関心がある方はぜひご覧ください。日本でも大学間格差が課題視されていますが、重なる部分も大いにあります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
米国の大学では、教員から、学科、学部、経営陣、大学全体とすべてのレベルで産学連携からの資金調達からの恩恵が直接個人の利害に接点を持つ以上に自身以外への相乗効果が期待できる。
しかしこれが、やってもやらなくても変わらないどころか、今までと少しでも違うことをすればそもそも指揮系統が別の事務方から仕事が増えると嫌がられ、成功すれば「よかったね」、失敗すれば安泰であるポジションが失われる可能性があるとすれば、ポリシーが現場で反映されるかどうかは明白である。
注意すべきは一見米国の大学では産学連携が素晴らしく機能しているように見えるが、実際にはこの様な雪だるま的な成功が成功を生むシステムはごく一部の特にエリート大学でしか機能していない。
そもそも資金的に余裕のあった私立のエリート校、規模の大きい大学で経営体制が整っているところは追加投資を繰り返し、設備面において、アイデアや熱心な研究や教育だけでは追いつけない位置を確立してしまい、企業からの大型共同研究もエリート校に集中している。この為、一部のエリート大学と、その他の大学との格差が広がっており、スタンフォード大学などが集中的に観察や比較の対象になっている事は注意すべきである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
追加投資を繰り返す大学とそうでない大学の格差が広がるという視点が仮に日本でも適用されるとすれば、今後想定される運営費交付金の評価配分額の増額に対し、配分額が増加スパイラル化していく大学群、低下スパイラル化していく大学群に分かれる可能性は0ではないかもしれません(すなわち、配分額増加分を追加投資にまわし、更なる成長に結びつけるという考え方)。これは評価配分額の指標の考え方にもよるでしょうが、大学の経営戦略は再考が必要になると考えられます。
■研究者のエビデンスは厳しくチェックされがちですが、企業との産学連携活動やコンサルティング活動についてのエフォートの割り当てやインセンティブは認める方針(重要視している)の大学が多い印象です。例えばケンブリッジ大学はエフォートの10%まではコンサルティング活動に使うことができ、その分は企業などから追加で給料を受け取ることができるようになっています。(成果報告書80ページ)
【研究力強化のための大学・国研における研究システムの国際ベンチマーク ~米国、英国、ドイツおよび日本の生命科学・生物医学分野を例に海外で活躍する日本人研究者に聞く~】
※JSTホームページ
https://www.jst.go.jp/crds/report/report04/CRDS-FY2019-RR-03.html
本報告書では、大きく変化しつつある生命科学関連の研究トレンドの中で、高い研究力を発揮するための研究システムのあり方を探るべく、このような潮流の変化の中で高い研究力を発揮している諸外国について、その研究システム、すなわち、研究資金、人材開発、研究インフラ・プラットフォーム、の3要素とこれらの運用方式、さらに、異分野連携、橋渡し・産学連携といった視点を加えて日本と比較調査したものです。特に、豊富な研究資金を元に全包囲網的に取組みを行える環境を有する米国と、日本より経済、人口規模ともに小さいながら、博士人材や論文の出版数においては、日本より上位に位置する英国とドイツにおける研究エコシステムについて、重点的な調査を行い、日本との比較調査を実施しています。
■関心が高いテーマとして、25-27ページにおいて、米国、英国、ドイツ、日本の大学の財政構造(フロー)についてまとめられています。このような財政構造分析のデータはほとんど無く希少性が高いデータと言えます。学内の産学連携部門の年間予算は、必ずしも部門内の活動状況だけで成立するものではなく、えてして大学全体の財政状況に影響を受けるものです。東京大学は産学連携等研究収入及び寄付金等収入の割合が特筆して高いことは一目で分かります。
■41ページ以降に、研究人材(キャリアパス、国際性)の各国比較が明示されています。理農系の修士課程と博士課程の数字で見ると、日本が諸外国(イギリス、米国、ドイツ、韓国、フランス)と比べて博士進学率が非常に低いことが分かります。進学率が低いことについては日本でも良く社会問題に挙げられていますが、本報告書ではその要因として下記の通り記載しています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「研究を行う職については原則公募とし、広く資質・能力のある研究者に公平な雇用機会を提供する。特に優れた若手研究者がその能力を最大限確保できるよう、若手研究者の自立性を確保する。従って採用する側も自ずと選考が厳しくなり、人気のある機関には多くの学生やポスドクが 応募し、競争率も高くなり、必然的に優秀な人材が集まるようになっている。また、多くの大学・研究所では、独立 PI 制をとっており、若手研究者がグループリーダーという形で早いうちに独立して自分の研究を進められる環境、支援体制が整っている。具体的には、ポスドク向けに若手の登竜門として、様々な機関・組織が提供するフェローシップ制度があり、 優秀な学生はこれを獲得しにいくのが通常である。フェローシップにも 2 種類あり、応募者(ポスドク)の生活費・研究費を支給するものと、それも含めジュニア PI となりラボを運営できるタイプのものがある。後者を獲得した者は、人員 4~5 名(本人、ポスドク 1 人または 2 人、院 生 1 人、テクニシャン 1 人の構成)に加え、研究費が 1,000 万円~2,000 万円/年でラボを運営するものが一般的である。5 年で中間評価があり、厳しい審査を経た上で、プラス 5 年でその後 いわゆるテニュアになるといったものである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
現場の視点からすると、研究者になることを希望する高度技術人材が増え、かつステップアップしていく上で妥当な考え方と言え、日本でも若手研究者向けの支援は政策的には力を入れている方向です。一方、日本と海外との研究環境面の剥離は現時点で非常に大きいので、海外水準のレベルに持っていくためには、年度ごとのPDCAによるデータ評価での見直しではなく、OODAループの観点からの柔軟かつスピーディーな支援体制の高度化が必要かもしれません。
■62ページ以降は、「研究インフラ・プラットフォーム、研究支援人材」について触れられている。特に、研究機器の共用化は日本と海外では大きく考え方が異なり、下記のように記載されている。日本では学内での機器共用化レベルで苦労しているケースが多いが、海外ではナショナル共用ネットワークでの運用がなされている。これは、そもそもの研究文化・評価基準が大きく異なることも影響していると考えられる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
またコアファシリティ化がしっかりと根付いていることをはじめ、各国単位でのイメージングやゲノム解析等機器・機能毎のナショナル共用ネットワークが発達している。これは以下と密接な関連がある。
⚫ 欧米では、PI 制であり、ポスドクの後独立するため個別ラボで機器をもっていると効率が悪い。博士学生への給与の支給があることから競争的資金等を人件費に使わなければなら ない。
⚫ 欧米は研究所、研究科単位で定量的に研究評価されており、研究インフラが整っていることが評価される。また、研究人材獲得競争があるため、研究インフラが整っていることがアピールになる。日本は大学単位あるいは研究者単位での評価になっており、囲い込みが 起きやすい。 結果として、複雑かつ高価になっていく研究機器の共有が下記に直結している。
-研究者が研究に専念できる環境
-機器共用による全体コスト効率化
-若手研究人材のスタートアップ環境整備
-異分野融合による新しいサイエンスの創出
基礎研究からイノベーションまでのコスト・時間短縮 外部から優秀な人材を招聘するには、資金とともに、研究インフラが整備されていることが有利になることも大きい。これらは欧米と日本における研究に対する考え方の違いを反映しているとも言える。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【アンケート調査から見た国内大学等による国際産学連携の現状】
※文部科学省ホームページ
http://www3.keizaireport.com/report.php/RID/305921/
日本の大学が海外の企業とどの程度国際産学連携に取り組んだ実績があるかを2016年1月-3月にかけて調査されました。
大学のうち、「国際的な産学連携、国内の産学連携どちらも行った実績がある」のは13.8%であり、体制面で課題があることが示されています。海外の大学がグローバル展開で積極的に取り組み収益を上げていることを考えると大きな課題であるように感じられます。
【海外におけるイノベーション創出システム等に関する実態調査】
※経済産業省ホームページ 株式会社日本総合研究所作成
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2014fy/E003945.pdf
■海外の大学発ベンチャー企業の事業概要、起業経緯、起業家・経営チームの特徴、起業家略歴、人材育成の場が事例として数多く掲載されています。研究者へのアクセラレーションは一般の創業支援を行うこととは異なる点が多々あります。日本の大学でインキュベーション支援・大学発ベンチャー支援を行う方にとっては参考になる情報と言えます。
■54-55ページに考察として、日本と欧米のイノベーション・エコシステムの違いについて述べられています。拠点となる大学は、大学自体が研究者の集積化を大きな目標としていること、起業家教育を活発に行っていること、ファンドを持ち投資を行っていること、経営に必要なリソースを供給するためのネットワークを持っていることが述べられています。特にエンジェルやベンチャーキャピタルと密接なネットワークを有しており、さまざまなマッチングの機会を通じて資金面の提供をしているとされています。また、最初から起業することを想定した研究者や博士課程学生が集まりやすいことなどが挙げられています。
■海外の大学における国外企業との連携促進に向けた取組み・体制・共同研究のルール・知財ライセンスのルール・どの法令に準拠するかの制度の事例が多国籍にわたって数多く掲載されています。前記のとおり日本の大学では海外企業との産学連携(共同研究、知財ライセンス等)の体制・ルールが定まっていない傾向にありますが、参照可能な貴重なデータと言えます。
■海外の大学や行政における拠点化(企業集積)が始まった経緯、企業集積に向けた取り組み、制度の事例が数多く紹介されています。目につくこととしては、特定の技術分野における最先端の研究開発を行えるだけの人的体制・設備(独自性がある最先端機器の外部開放など)と、行政における減税措置などの支援、様々な組織とのネットワーク化・ブランディング強化が必要な要素に感じられます。
海外の大学の取り組みや制度には、他にも間接経費の比率や大学のガバナンスの考え方など参考になる点は多々あります。その下支えは優れた人材群や人事マネジメントと言え、日本もその点から振り返る必要があるかもしれません。